まずは結婚してからだ
 黒革の座席もそうだが、ハンドルやブレーキも匠が検討に検討を重ねて選んだオプション仕様。
よほど気に入っているのか、匠は運転席に腰を下ろしハンドルに手を置いた時、まるで宝物を手にした子どものように顔をほころばせていた。
 その表情は、誕生日に飛行機の模型をプレゼントされて感動していた小学生の頃の幹太に似ていてホッとし、肩の力がほんの少し抜けたような気がした。

「近くに引っ越す予定はないのか?」
「もちろん考えたことはあるんですけど」

 赤信号で車を停めた匠に、花梨は苦笑する。

「今の家は、大学時代から住んでいて愛着があるし気に入ってるんです。それに、羽田近くはお家賃が高いので、私には現実的じゃないんです。先輩は羽田の近くに住んでいるんですよね。パイロットやCAの方は多いって聞きます」

同僚たちが、匠のことをそう噂していて、さすがパイロットだと感心したのを覚えている。

「たしかに多いな。やっぱりラクだし俺も沿線のマンションに住んでる。前は羽田近くの賃貸に住んでいたんだけど、三十階建てで眺望のよさが気に入って、思い切って買ったんだ。一年くらい前かな」

「買った?」

 思わず声が出た。
 パイロットの給料が他の職種と比べてもかなり高いことは理解しているが、この若さでさすがだなと、感心する。

「空港に近いっていいですね。羨ましいです」

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