まずは結婚してからだ

「いえ、なんでもないんです。ただ、間に合わなかったらって考えてしまって」

 花梨は苦笑交じりにつぶやいた。

「お客様が間に合わなかった時、運航スケジュールを考えるとキャンセルは当然で仕方がないとわかっているんです。でも、お客様の人生が変わることもあるし、キャンセルを伝えるスタッフの心苦しさもわかるので、なんだか気になって」

 ルールはルールだと割り切るべきだと理解していても、搭乗に間に合わなかったお客様を目の前にした時は、事情を想像して落ち込むこともある。

「さっきの男性がもし間に合わなかったら次の便でって簡単にはいかないですよね。現地に着いてからの乗り継ぎのこともあるし、簡単にはご案内できないし」

 とくに北海道は広い。
十九時の便に搭乗できなければその後の移動に支障が出る可能性は高い。

「いつもそうなのか?」

「いつも?」

「搭乗できなかったお客様のこと、いつも気にしてるのか?」

 匠はチラリと花梨を見やると、信号が青に変わるのを確認しアクセルを踏み込んだ。

「そうかもしれません。家族の結婚式に間に合わないとか、受験できないとか泣かれることもあって。お客様の気持ちを考えたら私も苦しくて。その必要はないとわかってるんですけど、つい」

 グランドスタッフとして働き始めてからかなり経つが、なかなか割り切ることができずにいる。

「つい……か」

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