まずは結婚してからだ
 普段と変わらない落ち着いた横顔に、花梨もどうにか気持ちを整えて周囲を確認すると、車はいつの間にか見覚えのある住宅街を走っていた。

「もうすぐです。この道をまっすぐ走った先に公園があるので、そこで停めていただければ大丈夫です」

 やがて車は公園の手前で静かに止まり、花梨は手早くシートベルトを外した。

「こんな遠くまで、わざわざありがとうございました」

 ここから羽田まで一時間ほどかかる。本当に申し訳ない。

「だから気にしなくていい。運転が好きだって言っただろ」

 匠はシートベルトを外し、花梨の頭をポンと軽く叩いた。

「でも、本当にありがとうございました」

 匠が誰に対しても優しいとわかっているのに。

 頭に匠の手の温もりを感じて、こうして送ってもらえた自分は特別かもしれないと、あり得ないことが頭に浮かぶ。

「もしかして、このマンション?」

 匠が見ているのは、淡いイエローの外壁が目を引くマンションだ。

「そうです」

 この三階で、花梨は暮らしている。

「オートロック完備でセキュリティーもしっかりしているので、家族も安心しているみたいです」

 それに静かな住宅地の中にあり、駅から徒歩十分で買い物にも不自由がない、便利な立地。
 大学時代から暮らしている愛着のある家だ。

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