まずは結婚してからだ
「ああ。今度は明るい時間にドライブに付き合ってもらえるとうれしい」

 匠はそう言って笑顔を見せる。

「え? ドライブ、ですか?」

 思いがけない誘いに花梨はきょとんとする。

「気が乗らない? ああ、恋人がいるのか?」

「いませんっ」

 恋人どころかこれまで好きになった男性すらいないのだ。
 思わず匠との距離を詰め、即答する。

「じゃあ、どこに行きたいか考えておいて」

「でも、先輩? 私とドライブって、どうして――」

「また連絡する。じゃあ、おやすみ」

 匠は戸惑う花梨を視線で制して、優しくうなずいた。

「お、おやすみなさい」

 匠は運転席に乗り込み窓から軽く手を振ると、静かに車を発車させ、今来た道を遠ざかっていった。

「ドライブって言ってた?」

 どういう意味だろう。それにまた連絡すると言っていた。

「冗談、だよね」

 そうでなければ社交辞令のような、単なる挨拶。
  あるいは後輩へのリップサービス。
 きっとそうだ。
 まるでこの一時間が現実だったのかどうか曖昧な、まだ夢の中にいるような気持ちに戸惑いながら。

「青井先輩……青井さん?」

 呼び方すら今もハッキリしないまま、花梨はなにも見えなくなった道路の向こうを、しばらくの間眺めていた。

   

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