まずは結婚してからだ
 彼女が入社して間もない頃、国内線のカウンターで搭乗手続きをしている姿を見た時は、何度も見返してしまうほど、驚いた。
 その時の花梨は乗客の対応に追われ、匠に気づく余裕はなかった。
 笑顔を意識し必死に仕事に向き合う姿は、部活で懸命に走っていた彼女の姿と重なり、懐かしさでつい口もとが緩んだ。
 その後、シフトが重なり初めて匠の存在を認識した時の花梨のぽかんとした顔は、忘れられそうにない。
 何度も目をまたたかせ、見間違いでも夢でもないと理解した時の照れたような笑顔も、今もハッキリと覚えている。
 頬を赤らめ大きな瞳は優しく揺れていて、ほっこりとした気持ちになった。
 ただ、担当する便が重ならない限りグランドスタッフとパイロットが顔を合わせる機会は滅多になく、直接言葉を交わすこともない。
 だからこの六年、花梨との距離が縮まることもなく、たまに顔を見かける程度という関係が続いていた。

「……ん?」

 ローテーブルに置いていたスマホの画面に、メッセージの着信が表示された。
 花梨からだ。

【今日はありがとうございました。明日のフライト、お気をつけて行ってらっしゃいませ】

「は?」

 最後のこのセリフ、まるでグランドスタッフに見送られているような気分だ。
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