まずは結婚してからだ
「いいよ。電車で帰るから大丈夫」

 披露宴の後、恋人とのキャンプ帰りの幹太にピックアップしてもらい三人で食事に行く約束をしていたが、渋滞なら仕方がない。
 声を聞いているだけで疲れているのもわかる。
 幹太とは花梨が大学進学のタイミングで実家を出てからも定期的に会っているが、花梨が就職してからは、勤務時間が不規則なせいでなかなか会えなくなった。
 久しぶりに会えると楽しみにしていたがあきらめるしかなさそうだ。

「来月のシフトが出たら連絡するね。もうすぐ幹太の誕生日だし、なんでもごちそうする」

『やった。結花も姉さんに会えるって楽しみにしてたんだけど。俺もまた連絡するよ』

「うん。じゃあ、気をつけて帰ってね」

 電話を終えて、花梨は小さく肩を落とした。
 前回幹太と会ったのは、一月の母の誕生日に実家に帰った時だから、三カ月前。
 これほど長い間会わなかったのは、初めてかもしれない。
 初めて幹太と顔を合わせたのは花梨が十歳の時。今から十八年前だ。
 幹太はまだ二歳で興味津々、大きな目で花梨を見つめていた。

『僕のお姉ちゃん?』

 人見知りしない幹太のはしゃいだ声を聞いた瞬間、花梨は絶えず抱えていた緊張が解けていくのを感じて、ぽろぽろと涙をこぼした。
 まるで自分がここにいていいよと許されたような、そんな気がしたのだ。
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