まずは結婚してからだ
 高校時代長距離の選手として名前が知られていた匠は、大学進学後は駅伝選手として活躍し、今も彼が打ち立てた区間記録は破られていない。
 その実力からカリスマ的な人気を誇り、当時は端整な見た目も手伝ってマスコミからの取材を受けることも多かった。卒業後も実業団で走り続けるだろうと誰もが思っていたが、大手航空会社日本エアウェイズのパイロット採用試験に合格し入社した。
 周囲はその決断に驚いていたが、父親の仕事の関係で長く海外で暮らしていた匠は英語が堪能でほぼネイティブ。
 語学力を生かした仕事に就きたかったとしてもおかしくない。
 そんな有名人からこうして声をかけられて、固くなるなというのが無理な話だ。
 おまけに匠がここにいる理由がわからない。

「監督には披露宴が始まる前に挨拶したけど、沢野のテーブル、南蒼の陸上部、勢揃いだな」

「そうですけど、どうしてそれを?」

 たしかに花梨のテーブルには花梨と匠が卒業した南蒼星高校――通称南蒼の陸上部の監督や卒業生が顔を揃えていて、皐の結婚を祝いながら、高校時代の思い出話や近況報告で盛り上がっている。
 匠がそのことをどうして知っているのか、ピンとこない。

「新郎が大学時代の陸上部仲間で俺も披露宴に出席してるんだよ。結婚相手が南蒼陸上部だったって聞いてはいたけど、沢野の同級生だったんだな」

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