こもれび日和
十五夜の夜の大騒ぎから数日後。
秋の風が少しだけ冷たくなり、
コモレビ保育園の園庭にはどんぐりが転がりはじめたころ――
スギムラユウサク巡査は、交番の奥の机でひとり黙々と作業をしていた。

ハサミ、色画用紙、ラミネートシート。
机の上には細長いカードがいくつも並んでいる。

「ふふ……よし、できたぞ。
あいつら、よろこぶだろうな」

スギムラ巡査の手には、
色とりどりのカードと、丸い金色の小さなバッジが光っていた。


その日の夕方。
コモレビ村交番の前を歩、直、トモ、マキ、ユイが通りかかった。

すると――。

「おーい、みんな。ちょっと来てくれ」
交番の前で腕を組んだスギムラ巡査が呼び止めた。

子どもたちは少し緊張しながら近づいた。

「この前の十五夜のこと、覚えてるな?」

5人は一斉にしゅんと肩を落とす。

「ごめんなさい……」
「もう夜にでかけない……」
「ウサギは、また今度……」

スギムラ巡査は笑って首を振った。

「いいんだ。もう怒ってない。
むしろ、きみたちが“月を見にいく”ってくらい元気なのは悪くない。
ただ、安全が一番だからな」

そして、後ろ手に隠していた袋をそっと前へ差し出した。


「はい。これ、みんなに渡したくてな」

スギムラ巡査が袋を開けると、
中には色画用紙で作られたカードが入っていた。

表紙には大きく、

『コモレビ探検団』

と書かれ、名前を書く欄もある。

そしてカードの横には――
星の形をした金色の小さな 探検バッジ が並んでいた。

キラキラ反射するバッジを見て、
子どもたちの目がいっせいに輝いた。

「わぁぁー!!」
「すごい!ほんものみたい!」
「かっこいい!」

スギムラ巡査は鼻の下をこすりながら言った。

「探検団員になったからには、
これからは“安全な探検”をしてほしい。
団員証の裏を見てみろ」


歩がそっとカードを裏返した。

そこには、スギムラ巡査の手書きで、
大きく丸い文字が並んでいる。

〈探検のおやくそく〉
1. よるには でかけません
2. おとなの ひとに ひとこと いいます
3. かわや みずべに ちかづくときは おとなといっしょ
4. なかまから はぐれない
5. たのしく かえってくること

直は声に出して読みながら、
とくに「よるには でかけません」のところで顔を赤くした。

「これは……ぼくたちのことだ……」

スギムラ巡査は苦笑いした。

「そうだ。ぜんぶお前たちが教えてくれた“気をつけるべきこと”だ。
あの夜、無事だったからこそ作れたおやくそくだぞ」

歩はバッジを胸につけ、
ぎゅっとこぶしを握った。

「スギムラさん!
ぼくたち、もうぜったいに夜に外に出ません!
これからは……『あんぜんたんけん』します!」

「うん!します!」
「ぜったい!」
「おやくそくする!」
「はいっ!」

子どもたち全員が元気いっぱいに答えた。

スギムラ巡査は満足そうにうなずき、
穏やかに言った。

「よし。じゃあ今日から……
お前たちは立派な――」

「コモレビ探検団」だ。


その日の夜。
歩と直は胸にバッジをつけたまま、
律と蘭のもとへ駆け寄った。

「みてー!!」
「ぼくら、たんけんだんいんになったんだよ!」

団員証を見た律と蘭は、
思わず感動して顔を見合わせた。

「スギムラさん……
こんな素敵なものを……」

律はバッジをそっと撫でながら微笑んだ。

「ふたりとも、よかったな。
でも、ちゃんと“おやくそく”は守れよ?」

歩と直はそろって胸を張った。

「うん!!」



その日の夜、
月の光がコモレビ村を静かに照らしていた。

歩は窓から空を見上げ、
小さくつぶやいた。

「つぎは、おひるに……たんけんしよう」

直も隣でうなずく。

「うん……ちょっとだけ、どきどきするけど」

探検団バッジが、月明かりにきらりと光った。
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