オノマトペの友情リアリティーショー
【03 トーク後半】
・
・【03 トーク後半】
・
次はワクワクが僕の教室に入ってくるなり、
「イエーイ! よろしくねー!」
とダブルピースしてきて、あまりにも好意的で何なら面を喰らってしまった。こんなオノマトペもちゃんと参加しているんだ。いやまあ最初の集合でこの子はそんな感じだったけども。
「よろしくお願いします」
と立ち上がって頭をさげると、ワクワクは「いいよ、そんなぁー!」と笑いながら席に座った瞬間に、
「何かこのイス湿ってる! ちょっとぉ! そういう窓のサッシの水を垂らしておくとかそういうイタズラは止めてよー!」
と言って立ち上がり、僕は一瞬脳内が真っ白になった。
いやそんなことしていないし……って、もしかしたらヌメヌメの汗がイスを湿らせたということ?
うわぁ、どうしよう、そう言っていいんだろうか、でもそれだとヌメヌメの悪口を言うことにならないか?
でもイタズラしたとも思われたくないし、ここはやんわり言うことにするか。
「前、座っていた子のぬくもりが残っているだけじゃないかな?」
「え? 誰だれ?」
即座にそう聞いてきたワクワク。
ここあんま掘り下げないほうがいいんじゃないかな、普通は、と思いつつも、ここで嘘つくやり方が分からず、正直に、
「ヌメヌメ、だったよ」
と答えると、ワクワクは「えー!」と言ってから、
「ヌメヌメってじゃあめっちゃ湿ってるほうぅー?」
そんなハッキリ、と思ったけども、でも確かにそうなので、
「うん、まあ」
と歯切れ悪くもそう答えると、ワクワクは、
「いやいや! 湿っているほうって言うのは失礼だよー! もー!」
とまるで僕が悪口を自ら言ったみたいな扱いにしてきて、そんな、と思ってしまった。
でもワクワクは一切何も気にする様子も無く、
「というか窓のサッシの水滴ってことにしても良かったんじゃないのー? それならー!」
と言い出して、そんな、いやこれは言おう。
「いやだってイタズラしたとは思われたくなくて」
「えー! イタズラいいじゃん! 楽しいじゃーん!」
と言いながらワクワクは上体をこっちに傾けると、僕の肩を軽くだけども肩パンしてきて、
「ちょ、ちょっと」
と気の利いた返しができなかったなぁ、と思っていると、ワクワクが、
「ちょ、ちょっとって、どういう意味ー?」
と掘り下げてきて、いやそんな意味なんてないけどもとは思っているんだけど、何か面白い返しができたほうがいいかなと思って、
「肩の防御力、まだ上げ切っていないから」
とボケてみると、ワクワクは「わっ!」と声出してから、
「その面白くないヤツ! いつ思いついたのー?」
そんなことハッキリ言わなくても、と僕は一気に意気消沈してしまった。
でもワクワクの言いっぷりはドスドスやチクチクのような悪意満点ではなくて、本当に素でそう言っているようで、かえって何だかキツかった。
僕はワクワクに変な質問攻めをされ続けて、二分間は終了した。
別れ際にワクワクが「楽しかったねー!」と言っていなくなったわけだけども、僕は無茶振りに次ぐ無茶振りで全然楽しくはなかった。
会話って必ずどちらかがダメージを受けるものなのかな、と何だか本当に不安でいっぱいになってきた。
悪意のあるオノマトペって結局傷つけたいという気持ちが前面に出ているから、そんなヤツの話なんて聞かなくていいという壁が作れるけども、悪意ゼロのあういうのは何か魂に響くというか、芯から傷つくというか。
なんというか、他人の振り見て我が振り直せ過ぎる。
次にやって来たのはガリガリで、スタッフに軽く背中に手を当てられたみたいだけども、それに対してガリガリがマンキンで睨みながら、
「やめろ! 触んな! クズ!」
と声を荒らげ、基本膝立ちしていて、いつも送迎してくれるスタッフも嫌そうな面持ちになり、気持ちを隠すことはしなかった。
険悪な雰囲気のまま、一対一トークが始まった。膝立ちしているスタッフと座っているスタッフはもう貧乏ゆすりがすごくて、ちょっと床が揺れているくらいだ。
この教室というか建物も新しい建物ではなくて木造なので、本当に揺れがこっちにもきている。
さて、好きなことを聞いてもいいのかどうか、でも僕が喋り掛けないと何も始まらないと思ったので、僕はさっきと同じようにカメラマンのスタッフの顔を見ると、頷かれたので喋り出すことにした。とは言え本来、僕には人の顔色を気にするみたいな特徴は無いのに。
「あの、好きなことって何かな? 僕は対戦ゲームで勝ったり、美味しいものを食べたりすることが好きなんだけども」
何か今までの僕の開示が良くないのか、食べ物の話を急に追加してしまった。いや決して悪いというわけじゃないはず。食べ物の話になったら、できるだけ否定せず、同調するようにすればいいだけだろうし。
するとガリガリはこっちのことも睨みながら、
「つまねんぇ、クズ」
とハッキリ言ってきて、そんな対面のオノマトペに対してちゃんと聞こえる声で”クズ”とか言うか? 普通、と思ってしまった。
僕はもうどうすればいいか分からず混乱し始めてしまい、
「はい」
と、とりあえず同調してしまうと、ガリガリは間髪入れず、
「適当に受け流せばいいと思ってんのか! クズ!」
と言って立ち上がり、僕の目の前に立って、僕の肩をグイと握り拳で押してきたのだ!
まさかここまでハッキリとニア暴力行為をしてくるなんて思わなかった、というかなんというか反射で、
「ちょっとぉ」
と言って座りながらだから全然力も無いんだけども、ガリガリの腰のあたりを押してしまうと、なんとガリガリがものすごい吹っ飛んで、尻もちをついたのだ!
いやいや! 僕座りながらだから全然力入らないし、いや確かにちょっと強く押そうとは思ったけども、なんせ腰深く座っていたから一切力は出なくて、肩だけの力だったから、まさか吹っ飛ぶとは思わなかった!
僕はすぐに立ち上がって、
「えっ! 大丈夫!」
と言うと、ガリガリは尻もちついた状態のまま、僕を睨んできて、
「そうやって見下ろしてぇわけだな! クズ!」
と言うと、身体全体を震わせながら、やっとの思いといった感じに立ち上がり、さらにガリガリは一言。
「やんのかコラァ! クズぅ!」
そう言ってまた距離を詰めてきて、僕の胸倉を掴んできたんだけども、その握力があまりにも弱い。
ここで僕が頭突きをかましたら、多分ガリガリ、比喩とかじゃなくて本当に死んじゃうだろうなって弱さを感じがしたので、僕は身体をできるだけ仰け反りながら首をブンブン横に振って、
「やる気は無いよぉ」
と、つい情けない声をあげてしまった。その時に思った。やってしまった、と。
どう考えても格下仕草だったと思い、ここからリーダーシップなんてとれるはずないと思っていると、ガリガリは僕から離れてこう言い放った。
「クズ! 頭突きしようとしてくんなよ! クズ!」
……えっ……首振っただけでそう思ってしまっている……というか仰け反っているから、その気がこっちに無いことは分かるはずなのに。
よく見ると、ガリガリは身体全体、本当に震えていて、どうやらビビっているようだった。
ここ、強く出れば、と一瞬思ったけども、そんなやり方が友情リアリティーショーという企画に合うはずがないと思って、即座に“そんなこと”を考えるのは止めることにした。
その時だった。
「ダッハッハ! ビビってやんの!」
一瞬誰が声を出したのか分かんなくて、ガリガリが僕に対して言ったんだと思ったんだけども、その声の主は貧乏ゆすりが酷かったずっと座り込んでいたスタッフだった。
そのスタッフはそれを皮切りにヒーヒー笑って、ガリガリのことを指差していた。
こんなん大人がする反応じゃないとは思ったんだけども、ちょっと溜飲がさがったところもあって、僕は黙って座ると、ガリガリはデカい声で、
「クズばっかだな!」
と言うと、まだ時間があるのに、教室から一人で出て行ってしまった。
するとその笑っていたスタッフは僕にサムアップしながら「いいねぇ」とニヤついて、いや僕はほとんど何も……と思うだけで、言うことはできなかった。
現にこのスタッフの挙動も怖いし、もう一体何なんだという思いでいっぱいだった。
残った時間が経過したのち、僕の教室にやって来たのは、トロトロだった。
もっとスッと歩けばいいのに、本当にスピードが遅くて、笑っていた貧乏ゆすりスタッフはどうやらタイムキーパーをやっていたようで、でもまだトロトロが着席しない状況で「始めまーす」と気だるげに声をあげて、二分間がスタートしたみたいだ。
僕はトロトロが座ったところで、大切なことを忘れていたことに気付いた。
まず最初の挨拶をちゃんとしていなかったかもしれない。
最初の自己紹介の時に済ませていたので、もういいと思ってしまっていたが、二人きりになった最初も挨拶を交わしておくべきだったかも、と。
確かに急に自慢やら好きなことを聞いても、何か上手くいかないわけだ。僕は本当にこういうところがダメなんだと思う。
「僕、ペラペラ。よろしくね」
とトロトロが着席したところですぐにそう言うと、トロトロはうんとゆっくり頷きながら、
「トロトロは、トロトロ、よろしく」
と言ってくれて、じゃあこうすれば良かったのかと安堵した。
そこからは返答こそ遅いものの普通に会話することができて、これが本当に抜けていたんだと思った。
トロトロとのトークは和やかに終わったわけなんだけども、あの座り込んでいるスタッフは何だかつまらなそうな顔をしていて、本当に雰囲気を悪くするオノマトペだなぁ、と思ってしまった。何かもっと事件が起きて欲しいみたいな表情だった。
最後にやって来たのが、キラキラでダンサーのようなステップを踏みながら来ていたんだけども、まずは挨拶だと思って、
「僕はペラペラ、よろしくね」
と言うと、キラキラがターンをしてから、
「無視せんといてぇーよ!」
とツッコむような手を出して、あぁ、この場合は先にダンスのほうに触れないといけないのかぁ、と反省した。
僕はすかさず、
「カッコイイ・ステップだね」
と言うと、キラキラは、
「勿論! ダンスやってんからね!」
とサムアップして、底抜けに明るいなぁ、と思った。
そこからは好きな話も自慢話も聞けて、一応僕が思っていた通りにはなった。勿論苦手は聞かなかったけども。
ただ終わって気になったのは、ずっと僕が質問するだけで、キラキラは一度も『君はどうなの?』という言葉が無かったということだ。
まるでインタビュアーとスターの関係性みたいな。キラキラはかなり上機嫌そうに教室を出て行ったけども、何だかなぁ、とも思った。
スタッフの準備ができるまで一旦待機となり、僕はずっと同じ教室で缶詰にされることになった。
・【03 トーク後半】
・
次はワクワクが僕の教室に入ってくるなり、
「イエーイ! よろしくねー!」
とダブルピースしてきて、あまりにも好意的で何なら面を喰らってしまった。こんなオノマトペもちゃんと参加しているんだ。いやまあ最初の集合でこの子はそんな感じだったけども。
「よろしくお願いします」
と立ち上がって頭をさげると、ワクワクは「いいよ、そんなぁー!」と笑いながら席に座った瞬間に、
「何かこのイス湿ってる! ちょっとぉ! そういう窓のサッシの水を垂らしておくとかそういうイタズラは止めてよー!」
と言って立ち上がり、僕は一瞬脳内が真っ白になった。
いやそんなことしていないし……って、もしかしたらヌメヌメの汗がイスを湿らせたということ?
うわぁ、どうしよう、そう言っていいんだろうか、でもそれだとヌメヌメの悪口を言うことにならないか?
でもイタズラしたとも思われたくないし、ここはやんわり言うことにするか。
「前、座っていた子のぬくもりが残っているだけじゃないかな?」
「え? 誰だれ?」
即座にそう聞いてきたワクワク。
ここあんま掘り下げないほうがいいんじゃないかな、普通は、と思いつつも、ここで嘘つくやり方が分からず、正直に、
「ヌメヌメ、だったよ」
と答えると、ワクワクは「えー!」と言ってから、
「ヌメヌメってじゃあめっちゃ湿ってるほうぅー?」
そんなハッキリ、と思ったけども、でも確かにそうなので、
「うん、まあ」
と歯切れ悪くもそう答えると、ワクワクは、
「いやいや! 湿っているほうって言うのは失礼だよー! もー!」
とまるで僕が悪口を自ら言ったみたいな扱いにしてきて、そんな、と思ってしまった。
でもワクワクは一切何も気にする様子も無く、
「というか窓のサッシの水滴ってことにしても良かったんじゃないのー? それならー!」
と言い出して、そんな、いやこれは言おう。
「いやだってイタズラしたとは思われたくなくて」
「えー! イタズラいいじゃん! 楽しいじゃーん!」
と言いながらワクワクは上体をこっちに傾けると、僕の肩を軽くだけども肩パンしてきて、
「ちょ、ちょっと」
と気の利いた返しができなかったなぁ、と思っていると、ワクワクが、
「ちょ、ちょっとって、どういう意味ー?」
と掘り下げてきて、いやそんな意味なんてないけどもとは思っているんだけど、何か面白い返しができたほうがいいかなと思って、
「肩の防御力、まだ上げ切っていないから」
とボケてみると、ワクワクは「わっ!」と声出してから、
「その面白くないヤツ! いつ思いついたのー?」
そんなことハッキリ言わなくても、と僕は一気に意気消沈してしまった。
でもワクワクの言いっぷりはドスドスやチクチクのような悪意満点ではなくて、本当に素でそう言っているようで、かえって何だかキツかった。
僕はワクワクに変な質問攻めをされ続けて、二分間は終了した。
別れ際にワクワクが「楽しかったねー!」と言っていなくなったわけだけども、僕は無茶振りに次ぐ無茶振りで全然楽しくはなかった。
会話って必ずどちらかがダメージを受けるものなのかな、と何だか本当に不安でいっぱいになってきた。
悪意のあるオノマトペって結局傷つけたいという気持ちが前面に出ているから、そんなヤツの話なんて聞かなくていいという壁が作れるけども、悪意ゼロのあういうのは何か魂に響くというか、芯から傷つくというか。
なんというか、他人の振り見て我が振り直せ過ぎる。
次にやって来たのはガリガリで、スタッフに軽く背中に手を当てられたみたいだけども、それに対してガリガリがマンキンで睨みながら、
「やめろ! 触んな! クズ!」
と声を荒らげ、基本膝立ちしていて、いつも送迎してくれるスタッフも嫌そうな面持ちになり、気持ちを隠すことはしなかった。
険悪な雰囲気のまま、一対一トークが始まった。膝立ちしているスタッフと座っているスタッフはもう貧乏ゆすりがすごくて、ちょっと床が揺れているくらいだ。
この教室というか建物も新しい建物ではなくて木造なので、本当に揺れがこっちにもきている。
さて、好きなことを聞いてもいいのかどうか、でも僕が喋り掛けないと何も始まらないと思ったので、僕はさっきと同じようにカメラマンのスタッフの顔を見ると、頷かれたので喋り出すことにした。とは言え本来、僕には人の顔色を気にするみたいな特徴は無いのに。
「あの、好きなことって何かな? 僕は対戦ゲームで勝ったり、美味しいものを食べたりすることが好きなんだけども」
何か今までの僕の開示が良くないのか、食べ物の話を急に追加してしまった。いや決して悪いというわけじゃないはず。食べ物の話になったら、できるだけ否定せず、同調するようにすればいいだけだろうし。
するとガリガリはこっちのことも睨みながら、
「つまねんぇ、クズ」
とハッキリ言ってきて、そんな対面のオノマトペに対してちゃんと聞こえる声で”クズ”とか言うか? 普通、と思ってしまった。
僕はもうどうすればいいか分からず混乱し始めてしまい、
「はい」
と、とりあえず同調してしまうと、ガリガリは間髪入れず、
「適当に受け流せばいいと思ってんのか! クズ!」
と言って立ち上がり、僕の目の前に立って、僕の肩をグイと握り拳で押してきたのだ!
まさかここまでハッキリとニア暴力行為をしてくるなんて思わなかった、というかなんというか反射で、
「ちょっとぉ」
と言って座りながらだから全然力も無いんだけども、ガリガリの腰のあたりを押してしまうと、なんとガリガリがものすごい吹っ飛んで、尻もちをついたのだ!
いやいや! 僕座りながらだから全然力入らないし、いや確かにちょっと強く押そうとは思ったけども、なんせ腰深く座っていたから一切力は出なくて、肩だけの力だったから、まさか吹っ飛ぶとは思わなかった!
僕はすぐに立ち上がって、
「えっ! 大丈夫!」
と言うと、ガリガリは尻もちついた状態のまま、僕を睨んできて、
「そうやって見下ろしてぇわけだな! クズ!」
と言うと、身体全体を震わせながら、やっとの思いといった感じに立ち上がり、さらにガリガリは一言。
「やんのかコラァ! クズぅ!」
そう言ってまた距離を詰めてきて、僕の胸倉を掴んできたんだけども、その握力があまりにも弱い。
ここで僕が頭突きをかましたら、多分ガリガリ、比喩とかじゃなくて本当に死んじゃうだろうなって弱さを感じがしたので、僕は身体をできるだけ仰け反りながら首をブンブン横に振って、
「やる気は無いよぉ」
と、つい情けない声をあげてしまった。その時に思った。やってしまった、と。
どう考えても格下仕草だったと思い、ここからリーダーシップなんてとれるはずないと思っていると、ガリガリは僕から離れてこう言い放った。
「クズ! 頭突きしようとしてくんなよ! クズ!」
……えっ……首振っただけでそう思ってしまっている……というか仰け反っているから、その気がこっちに無いことは分かるはずなのに。
よく見ると、ガリガリは身体全体、本当に震えていて、どうやらビビっているようだった。
ここ、強く出れば、と一瞬思ったけども、そんなやり方が友情リアリティーショーという企画に合うはずがないと思って、即座に“そんなこと”を考えるのは止めることにした。
その時だった。
「ダッハッハ! ビビってやんの!」
一瞬誰が声を出したのか分かんなくて、ガリガリが僕に対して言ったんだと思ったんだけども、その声の主は貧乏ゆすりが酷かったずっと座り込んでいたスタッフだった。
そのスタッフはそれを皮切りにヒーヒー笑って、ガリガリのことを指差していた。
こんなん大人がする反応じゃないとは思ったんだけども、ちょっと溜飲がさがったところもあって、僕は黙って座ると、ガリガリはデカい声で、
「クズばっかだな!」
と言うと、まだ時間があるのに、教室から一人で出て行ってしまった。
するとその笑っていたスタッフは僕にサムアップしながら「いいねぇ」とニヤついて、いや僕はほとんど何も……と思うだけで、言うことはできなかった。
現にこのスタッフの挙動も怖いし、もう一体何なんだという思いでいっぱいだった。
残った時間が経過したのち、僕の教室にやって来たのは、トロトロだった。
もっとスッと歩けばいいのに、本当にスピードが遅くて、笑っていた貧乏ゆすりスタッフはどうやらタイムキーパーをやっていたようで、でもまだトロトロが着席しない状況で「始めまーす」と気だるげに声をあげて、二分間がスタートしたみたいだ。
僕はトロトロが座ったところで、大切なことを忘れていたことに気付いた。
まず最初の挨拶をちゃんとしていなかったかもしれない。
最初の自己紹介の時に済ませていたので、もういいと思ってしまっていたが、二人きりになった最初も挨拶を交わしておくべきだったかも、と。
確かに急に自慢やら好きなことを聞いても、何か上手くいかないわけだ。僕は本当にこういうところがダメなんだと思う。
「僕、ペラペラ。よろしくね」
とトロトロが着席したところですぐにそう言うと、トロトロはうんとゆっくり頷きながら、
「トロトロは、トロトロ、よろしく」
と言ってくれて、じゃあこうすれば良かったのかと安堵した。
そこからは返答こそ遅いものの普通に会話することができて、これが本当に抜けていたんだと思った。
トロトロとのトークは和やかに終わったわけなんだけども、あの座り込んでいるスタッフは何だかつまらなそうな顔をしていて、本当に雰囲気を悪くするオノマトペだなぁ、と思ってしまった。何かもっと事件が起きて欲しいみたいな表情だった。
最後にやって来たのが、キラキラでダンサーのようなステップを踏みながら来ていたんだけども、まずは挨拶だと思って、
「僕はペラペラ、よろしくね」
と言うと、キラキラがターンをしてから、
「無視せんといてぇーよ!」
とツッコむような手を出して、あぁ、この場合は先にダンスのほうに触れないといけないのかぁ、と反省した。
僕はすかさず、
「カッコイイ・ステップだね」
と言うと、キラキラは、
「勿論! ダンスやってんからね!」
とサムアップして、底抜けに明るいなぁ、と思った。
そこからは好きな話も自慢話も聞けて、一応僕が思っていた通りにはなった。勿論苦手は聞かなかったけども。
ただ終わって気になったのは、ずっと僕が質問するだけで、キラキラは一度も『君はどうなの?』という言葉が無かったということだ。
まるでインタビュアーとスターの関係性みたいな。キラキラはかなり上機嫌そうに教室を出て行ったけども、何だかなぁ、とも思った。
スタッフの準備ができるまで一旦待機となり、僕はずっと同じ教室で缶詰にされることになった。