この度、元副総長さまが会社の先輩になりまして。
「え……」
個室の扉が慌ただしくスライドした。
空気が、ふっと変わる。いろはが「え、イケメン」と誰に言うでもなくぽつんと漏らしたのを、私は聞き逃さなかった。
「わ、須臣く〜んっ、残務お疲れ〜!」
「よっ、地獄からの使者!」
「地獄……?」
扉の向こうに立っていたのは、スーツの上着を片手に持ち、もう片方で髪を無造作にかきあげる男の人。目を引くほどの顔立ちで、でも、軽くは見えない。
息を切らして入ってきたその人と私は、真っ先に視線が絡みあった。お互いに、目を見開く。
金髪だったあのころからは想像もつかない爽やかな黒髪で、耳たぶにあいていたピアスの穴は塞がっている。一瞬、わからなかった。だけど、大人になっても変わらないんだなって思った、そのアイドルみたいなきらきらしたオーラとか、ぷっくりした涙袋とか、目元の泣きぼくろとか、見事にあのころのままだ、
私ってひょっとして予知夢が見れるのか。
どうして、ここに――
「千景、さん……?」
「み、なみ……?」
「え? なにきみたち知り合い?」
え、そんなことある?w と全員が語尾に草を生やしてるけど、こっちだって同じくらい動揺してる。
「南は中学の、後輩っす……」
余計なことはしゃべんなよ、って視線を、千景さんが私に送っている。私だってあなたにデメリットしかないことなんてしゃべるわけないじゃないですか、という視線を返した。
――須臣千景は中学の二つ上の先輩だ。私がそのころどうしてだか気に入られていた地元の不良グループの、副総長だった人だ。