この度、元副総長さまが会社の先輩になりまして。

02 金曜日と牽制

 

「いや、地獄じゃん?」


いろはは『営業部第一課・エリアチーム』という文字列を見るなり、げんなりした顔でそう吐き捨てた。


 入社初日。始業時間より早めに出社を命じられた私たち新入社員に、人事課の日下さんから配属先が記載された書類が配られた。どうでもいいけど、日下さんは仕事中とそれ以外でばっちりオンオフを切り替えるタイプなのか、二週間前に懇親会で見た彼女とは別人のようにてきぱきとしている。

 それにしても。

 へえ〜、そこがいわゆる地獄なんだ〜、っていろはの辞令書を横から覗きながら呑気に他人事のように思っていたら、


「まあ、七海も一緒ならいっか」

……なんだって?

 ぺらり、と捲った自分の手のひら、『営業部第一課・エリアチーム』。ゲっ、ほんとだ、まじだ。


「須臣くんもいるし、心強いでしょ?」


 日下さんが、いつの間にか私といろはの背後に歩み寄って、こっそりと耳打ちする。オフモードの日下さんが垣間見えた。

 そっか、千景さんがいる部署でもあるのか。同期のいろはがいて、地元の先輩である千景さんもいるというのだから、私にとってはこれ以上ない高待遇の人事配置なのかもしれない。ただ、あまりに地獄地獄って聞かされ続けているわけだから、身構えもするわけで。


「まあ、目の保養ではありますけどォ、だったらエリアチームじゃなくて、隣のキャリアチームでよかったです」

「卜部さんは満場一致でエリアって決まったから」


 あ、これオフレコね、とだけ残して、日下さんは逃げるように別の新入社員のもとへと駆け寄って行った。


「いろは、仕事内容に詳しいんだね?」

「詳しいっていうか、懇親会のときに先輩に教えてもらったの。新規採用者は基本的に営業スタート。一課のキャリアチームはひとつひとつの案件が大きいからプレッシャーあるけど、ルート営業だから慣れさえすれば毎日定時退社できる、エリアチームは新規開拓を“足”で稼ぐから、体力も根性も必要だし向き不向きあるし、不向きだと判断されれば二課のコールセンター部門に異動させてもらえるみたいだけど……それはそれで一日中電話対応でノイローゼになるって聞いた、三課はIT専門らしいからまあ、私なんかは無縁の部署だね」


 は〜あ、と今世紀最大みたいなため息を吐く。悲壮感を漂わせているところ悪いけれど、今のはなしを聞く限りでは、いろはのエリアチーム配属は妥当な気がする。そして私はオマケというか、懇親会でいろはと仲良しアピしちゃったもんだから、道連れになっただけな気がする。


 
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