私を人質にした家族の皆様、敵国王家は私の味方のようです ~最強王家と才女による壮麗なる成敗劇~

『敵国に嫁入りしました』


 クルグス王国への輿入れの準備は性急に進められ、国王から輿入れの話を聞いて一か月後。マリーベルはクルグス王国に向けてリュシエール王国を発つことになった。


(もうすぐ、クルグス王国の王都に入るわね)


 マリーベルはさざ波のように不安で揺れる胸を押さえながら、馬車の窓から外の景色を眺める。戦場になった国境とは異なるルートからクルグス王国に入国することになり、現在マリーベルの乗る馬車は森の中を走っていた。
 敵国の王女が大勢の人の目につくルートで堂々と入国したら、リュシエール王国を良く思わない派閥の国民を刺激してしまうためだ。それを避けるため、少人数の護衛を付ける形で目立たない裏ルートが今回選ばれた。
 そのため他に道を利用する者はおらず、奥まで木が生い茂る見慣れぬ森は少々不気味に感じる。クルグス王国でどんな扱いが待っているのか……という不安が、不気味に見せているだけなのだろうが。


(大陸の中でも美しい街と言われている、クルグス王国の王都の景観を眺められたら少しは気持ちが軽くなるかしら?)


 できるだけ楽しいことを想像し、森から抜けるのをじっと待った。
 すると突然、馬車が止まった。


「襲撃だ!」


 護衛騎士の張り上げた声が、馬車の中にまで届く。
 窓から顔を出すようにマリーベルが慌てて前方を確認すれば、荒っぽい印象の男集団が道を塞いでいた。十人グループの彼らの手には剣や槍、鍬などといった不揃いの武器が握られていて、全員が目をギラギラさせてこちらを見ている。


(もしかして野盗!? 裏ルートを使ったのが仇になった!?)


 隠れて移動できるということは、野盗にとってもターゲットを孤立させやすく都合が良い場所であることに今更気づく。
 馬車なので、急な進路変更もできない。
 リュシエール王国につけてもらった護衛は最低限ということもあり、こちらの騎士は五名と数で劣っているのも痛い。
 加えて護衛対象は、王族が虐げていた無価値の王女。そんな王女のために命を懸けるのは嫌なようで、騎士たちは剣を抜いて構えて野盗と対峙いるものの、顔にはマリーベルを置いて自分たちだけ撤退するかどうか迷いの表情が浮かんでいる。
 一方で野盗たちは馬車の中に若い女がいると知り、分かりやすく好戦的で下品な笑みを浮かべた。
 マリーベルの背筋に、悪寒が走る。


(このまま騎士に見捨てられ、あの者たちの慰み者になるくらいなら……一か八かで逃げてみる?)


 方角も分からない森にむやみに出たら、自ら遭難し死ぬようなことかもしれない。
それでも、野盗に好き勝手されて死ぬよりはマシだろう。そんな考えがマリーベルの頭を過った。
この間にも夜盗はにじり寄り、騎士は及び腰になっていく。


(逃げるなら今しかない! 運が良ければ森を抜けて、誰かに保護してもらえるかもしれないし――って、えっ!?)


腹を括ってマリーベルが扉を開けた瞬間、馬車と野盗の間に割り込むように稲妻が落ちた。
だが空に雲はひとつもなく、雷が落ちたのに不思議と誰も感電していない。
何が起きたのか。全員が呆気に取られていると、夜盗の背後から馬に乗った青年がひとり現れる。


「今のは警告だ。それ以上馬車に近付くというのなら、次は当てる」


 冷たく野盗に告げた金髪の青年は、目を見張るような麗しい容貌をしていた。
髪は太陽の光を集めたような眩い黄金色でサラッと短く、空のように澄んだ青い目元は涼しげな印象。目鼻口といったパーツが完璧な位置で顔に配置されており、おとぎ話の王子様がそのまま絵本から出てきたような美丈夫だ。
そんな彼は上質な外套を羽織り、冷え冷えとした眼差しで野盗を馬の上から見下ろしている。


「ま、魔法!? 今の雷はお前が……いや、それでも数はこっちが優勢だ! 先にこの金髪野郎をやっちまうぞ!」
「おう!」


 野盗たちの標的がマリーベルたちから、金髪の青年へと移る。青年に襲い掛かろうと、彼らは武器を振り上げて走り出した。
十対一と、数だけ見れば明らかに青年が劣勢。
しかし青年の冷たい表情はピクリとも変わることなく、人差し指を野盗に向けて軽く横に振った。


「ぎゃぁ!」


 稲妻が横に走り、感電した野盗たちが次々と倒れていった。運よく感電から逃れ、再び青年に武器を構える者もいるが。


「上物の前に諦めるわけには――ぐぎゃ」
「悪事を働くものに容赦はしない」


 青年に届くはるか前で雷に打たれ、白目を向く。気づけば、たった十秒足らずの間に野盗全員が意識を手放して地面に転がっていた。
 圧倒的な魔法の威力の前に、マリーベルはおろか、リュシエール王国の騎士も佇むことしかできない。
 その青年は馬から下りると、マリーベルが乗る馬車の前に歩み寄った。
 落ち着き払った表情ということもあり、近くで見るとより青年の美しさに圧倒されそうになる。リュシエール王国でも、これほど美しい男性を見たことがない。


「無事のようだな。君がリュシエール王国の王女、マリーベル姫で間違いないだろうか?」
「は、はい」
「よく来てくれた、マリーベル姫。俺は、君の夫となるギルベルトだ」


 目の前の美丈夫は、嫁ぎ先の男性だと名乗る。
 予期せぬ人物の出迎えに、マリーベルの背筋が伸びた。
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