私を人質にした家族の皆様、敵国王家は私の味方のようです ~最強王家と才女による壮麗なる成敗劇~

(まさか、ギルベルト殿下だったなんて!)


 野盗から助けてくれたのは、マリーベルの嫁ぎ先で、今年二十四歳を迎えるクルグス王国の第三王子らしい。


「助けてくれて感謝いたします。どうして第三王子殿下がこちらに?」
「数日前に、この街道に野盗らしき集団が潜んでいるという情報が入っていたが、事前捜査で捕縛に至らず……姫に何かあっては大問題。事前にリュシエール王国に通達していたが……知らなかったのか?」
「……それは、失礼いたしました。存じ上げておりませんでした」


 マリーベルの不幸を願う家族のことだ。野盗に襲われたら面白いからと、あえてクルグス王国からの通達を無視し、マリーベルに教えてなかったのはもちろん、護衛も増やさなかったのかもしれない。


「やはり……何か手違いがあったのかもしれないな。護衛が少なすぎると思っていた。とにかく返事がもらえなかったため、念のためこちらで複数の騎士を選出し、距離を保ちながら馬車を国境から密かに見守らせてもらったというわけだ」


 ギルベルトの言葉を証明するように、前後から各二名、計四名の騎士が馬に乗って現れた。彼らは馬から降りて、手際よく倒れている野盗を縛り上げていく。
 このタイミングまで姿を現さなかったということは、ギルベルトひとりで野盗を倒せるという確信があったからに違いない。


(むしろ第三王子殿下の邪魔にならないよう、あえて離れていたのかも)


 実際にマリーベルから見たギルベルトと野盗の戦いは、戦いと呼べないほど一方的だった。魔法の凄さをありありと見せつけられた。


「お気遣い、感謝いたします。でも、殿下自らなんて……」
「君は俺の妻となる王女。自分の身内のことは、自分で責任を持つのが道理。その責任を果たしたかったまでだ」


 神妙な口調からも伝わるように、ギルベルトは非常に真面目な人物のようだ。
 血の繋がった父でさえもマリーベルの出国の見送りに来なかったというのに、敵国の王子のほうが律儀だとは。
 いや、あの非常識家族と比べては失礼かもしれない。


「ありがとうございます」
「では、移動を再開しよう。ただ念のため、安全性を考えてルートを変えたい。俺が先導するから、付いてくるように。なお、人通りがあるところも通過するから、王女の姿が民衆に触れないようカーテンは閉めていてくれ」
「承知しました」


マリーベルはギルベルトの指示に従い、馬車の中に戻るとカーテンを閉めた。
 馬車はすぐに出発となった。
 しばらくして馬車は無事に王都に入り、とある場所で停まった。


「ここが、俺たちがこれから住むフォルトナー公爵邸だ」
「!」


 馬車の扉が開いた先には、マリーベルの視界に入りきらないほどの大きい屋敷に息を呑んだ。
 白亜の石で造られたその屋敷は清廉さと荘厳な佇まいを兼ね備えており、ギルベルトが『公爵邸』と教えてくれなければ王城と勘違いしていたかもしれない。
 圧倒されていると、ギルベルトがマリーベルに手を差し伸べた。


「手を」
「……ありがとうございます」


 エスコートしてくれるとは思っていなかったマリーベルは、内心驚きつつそっとギルベルトに手を重ねた。
 馬車のステップを慎重に降りながら、不躾にならないよう気を付けながら夫となる男性を改めて観察する。
丁寧な手つきで降車をエスコートしてくれるが、表情は涼しげで、何を思っているのか感情が読めない。冷たさを感じる眼差しに軽蔑の色は含まれていないようだけれど、歓迎の意も全く感じられない。
 相手はつい先日まで戦争していた敵国の王女なのだから、当然と言えば当然である。


(あからさまに憎悪の眼差しを向けられないだけましだわ。それにしても、ギルベルト様は背が高いのね)


 馬車を降りて並び立ったことで、ギルベルトの背の高さにも目を奪われる。
 ギルベルトの背はマリーベルの頭ふたつ分は優に高く、彼の顔を見るためには思い切り見上げなければいけない。その身長の高さから一見スマートな体格の印象があったが、肩幅の広さや胸まわりの厚みから、常に鍛えていることがわかった。


(さすが大陸屈指の精鋭と言われるクルグス魔法騎士団の団長だわ。先ほどは魔法しか使わなかったけれど、噂によれば剣技にも優れているはず。第三王子で身分は最上級。容姿は抜群で、戦っても強い。これだけ素敵な人なのだから、本来はもっと素晴らしい令嬢との縁も望めたでしょうに、運悪く私と結婚するなんて……本当にお可哀想)


 今すぐ土下座してお詫びしたい気持ちを抑え、マリーベルは丁寧に腰を折った。


「改めまして、本日よりお世話になります。リュシエール王国の第一王女マリーベルでございます。ご迷惑をお掛けしないよう気をつけますので、どうかよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。では、早速部屋まで案内しよう。こっちだ」
「あの、申し訳ありません。今荷物を降ろすので、少々お待ちいただけませんか?」


 屋敷の中へと歩き出したギルベルトを引き留めて、マリーベルは慌てて馬車の中へ引き返す。
 マリーベルは人質だ。母国から武器を持ち込まないよう荷物は最小限にするよう求められ、持ってきたのはトランクひとつだけ。
 表向き人質としての価値がある王女と装うために、トランクの中には宝石も入っている。唯一の貴重品を馬車に放置することに戸惑いがあった。


「それはレイに運ばせればよい。時間が惜しいから、まずは屋敷の主要な場所の案内をさせてくれ」


 ギルベルトがそういうや否や、横から茶髪の執事が現れて、馬車からトランクを取り出してくれた。そして、控えめに手のひらをギルベルトのほうへ向けて、主人についていくよう無言で促してくれる。
 どうやらトランクは、レイと呼ばれる執事が運んでくれるらしい。


「では、行こう」
「はい」


 マリーベルはレイに軽く頭を下げると、すでに歩き出していたギルベルトの背中を慌てて追いかけた。
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