契約結婚は終了しました
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ことのはじまりは三年前。
何か仕事を世話してもらえないかと、メリーベルが実の父の屋敷を訪ねたのが事の始まりだ。
メリーベルは庶子だ。
メイドをしていた母と、上流階級の父との間に生まれた。もちろん結婚はしていないが、子供として認知はされていた。
もともと貴族には多かれ少なかれ魔力がある。メリーベルにもそれは受け継がれていた為、隠すのは罪になるからだ。
魔力と言っても、メリーベルが使えるのは簡単な生活魔法だけだ。
生活道具が発達した現代では使われることがほとんどないが、貧乏人には大変重宝する便利な力というのが、メリーベルの認識だった。
言語能力に長けた母に上流階級の言葉を習い、のちに母と結婚した養父から教育を受けたメリーベルは、八歳年下の弟を大変可愛がりながら、家族仲良く幸せに暮らしていた。
なのにそれは突然地獄に突き落とされる。
メリーベルが十六歳の時、父母がともに事故で亡くなった。
それから一年。弟を養うだけなら何とかなっているが、どうにか教育を受けさせてやりたいと悩んでいた時、勤めていた洋品店が店をたたんでしまい無職になってしまった。
悩みに悩んだ末、何か仕事を紹介してもらおうと実父を訪ねた。何でもする覚悟だった。
しかし対応してくれたのは実父ではなく、彼の妻ダニィだった。
実父は彼女の後ろで小さくなっているのに目を丸くしたけれど、この家を支えているのは彼女だと、初対面のメリーベルでさえ一目でわかった。
実父は見てくれがいいだけの、ただの陽気な無能もの(しかも無類の女好き!)だと、噂の端々で知っていたから、むしろこの女性が当主ならこの家も安心だろうと。彼女ならいい仕事を紹介してくれるのではないかと。なぜか無条件にそう信じてしまった。
実父に面立ちが似ているメリーベルを見て、ダニィは面白そうに右の眉をあげた。それはメリーベルの予想に反し、親しみのある温かなものだった。
(てっきり不快そうな顔をされると思ったのに――)
そう考えていると、ノックもなしで一人の女性が早足で入って来る。
明るい茶髪に黒に近いほど濃い青い目のメリーベルとは対照的に、明るく波打つ金髪に明るい空色の目をした彼女は、本妻の娘ベリンダだった。
「お客様だったのね。ごめんなさい。――お母様、この方は?」
なぜか青い顔をしているベリンダがそう問うと、ダニィがニッと口角をあげた。
「名前はメリーベル。ベリンダ、あなたの妹よ」
「「えっ?」」
娘二人が驚きの声をあげるが、理由はそれぞれ違った。