騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
第四話「静かに揺れる心」
森の入り口で、ベイルは馬の手綱を引きながら振り返った。
「……日が落ちる。案内できるか」
問いは短い。余計な柔らかさはない。
少女はマントの端を握りしめたまま、静かに頷く。
「……森を抜ければ、家がある」
それだけ告げる。
ベイルはそれ以上は聞かない。
先に馬へ跨り、落ち着いた動作で手綱を握る。
それから少女へと向き直る。
夕暮れの光の中、鋼色の瞳は揺らがず、真正面からその瞳を見つめた。
夕暮れの光を受けてわずかに温もりを帯びた淡紫の瞳。
柔らかい色だ。
あの時見た、剣士の瞳の色とは違う……。
「……掴まれるか」
当然のように差し出される手。
少女は一瞬だけ戸惑う。
その視線を受け止めると、逃げ場がなくなるようで……。
けれど、逸らさない。
ゆっくりと、その手を取る。
触れた瞬間、確かな体温が伝わる。
支えるための、揺るがぬ力。
少女は馬上へと引き上げられ、マントの裾が揺れた。
距離が近い。
群青色の髪がすぐそばで揺れ、鋼色の瞳がわずかに細められる。
けれどそこに、不躾さはない。
ーー悪い人では、なさそうだ。
そのことが、少しだけ彼女の警戒を緩める。