騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした

第四話「静かに揺れる心」


 森の入り口で、ベイルは馬の手綱を引きながら振り返った。

 「……日が落ちる。案内できるか」

 問いは短い。余計な柔らかさはない。

 少女はマントの端を握りしめたまま、静かに頷く。

 「……森を抜ければ、家がある」

 それだけ告げる。

 ベイルはそれ以上は聞かない。

 先に馬へ跨り、落ち着いた動作で手綱を握る。

 それから少女へと向き直る。

 夕暮れの光の中、鋼色の瞳は揺らがず、真正面からその瞳を見つめた。

 夕暮れの光を受けてわずかに温もりを帯びた淡紫の瞳。
 柔らかい色だ。
 あの時見た、剣士の瞳の色とは違う……。

 「……掴まれるか」

 当然のように差し出される手。

 少女は一瞬だけ戸惑う。
 その視線を受け止めると、逃げ場がなくなるようで……。

 けれど、逸らさない。

 ゆっくりと、その手を取る。

 触れた瞬間、確かな体温が伝わる。

 支えるための、揺るがぬ力。

 少女は馬上へと引き上げられ、マントの裾が揺れた。

 距離が近い。

 群青色の髪がすぐそばで揺れ、鋼色の瞳がわずかに細められる。

 けれどそこに、不躾さはない。

 ーー悪い人では、なさそうだ。
 
 そのことが、少しだけ彼女の警戒を緩める。
  
< 10 / 64 >

この作品をシェア

pagetop