騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
少女を馬上へ引き上げたあと、ベイルは手綱を握り直した。
夕暮れの森へ、馬がゆっくりと踏み出す。
彼女の背中越しに感じる体温。
その距離は近い。
(落ち着け……)
前を見据えたまま、呼吸を整える。
視線は動かせない。
だが、感じる。
灰銀色の髪が、風に揺れ、時折肩先に触れる。
濡れた気配が、かすかに伝わる。
華奢な背中。
だが、その背筋は驚くほど真っ直ぐだ。
馬が小さく揺れる。
その瞬間、少女の重心が自然に調整される。
無駄がない。
(……慣れている?)
森育ちだからか。
そう自分に言い聞かせる。
だが、違和感が消えない。
白銀の髪のあの剣士。
間合いの取り方。
無駄のない立ち姿。
目の前の少女の、この静かな安定感。
重なる。
否定する。
ーーあの剣士は少年だ。
だが、胸の奥で別の声が囁く。
あの時、自分は瘴気を吸っていた。
視界は霞み、意識も万全ではなかった。
記憶も、どこか曖昧だ。
あの剣士を、少年だと思った根拠は何だった?
細身だったからか。
声が若く響いたからか。
ーー違う。
ーーそうだーー……自分は、認めたくなかったのだ‼
龍に追いつめられ、意識も曖昧なままーー
救われたのが、少年ではなく、少女だったなど。
騎士である自分が。
剣を誇りとしてきた自分が。
少女に命を救われたなど。
どこかで、受け入れ難かったのではないか。
男としての矜持が。
騎士としての誇りが。
「自分は守る側であるはずだ」と無意識に抵抗していたのかもしれない。
だから都合よく少年の姿を思い描いた。
胸の奥に、苦いものが沈む。
誇りは時に、真実を曇らせる。
ベイルは苦笑いを浮かべ、息をひとつ落とした。
そして今ーー
背中越しに伝わる、馬上での少女の体温と、時折流れてくる柔らかな髪。
触れるわけではないのに、その距離の近さに、心がざわつく。
胸の中で、確信ではなくただ予感だけが揺れる。
もしかするとーーあの剣士は、この少女なのかもしれない……と。
まだ口に出すには早い。けれど、心は確かに揺れていた。
夕暮れの森へ、馬がゆっくりと踏み出す。
彼女の背中越しに感じる体温。
その距離は近い。
(落ち着け……)
前を見据えたまま、呼吸を整える。
視線は動かせない。
だが、感じる。
灰銀色の髪が、風に揺れ、時折肩先に触れる。
濡れた気配が、かすかに伝わる。
華奢な背中。
だが、その背筋は驚くほど真っ直ぐだ。
馬が小さく揺れる。
その瞬間、少女の重心が自然に調整される。
無駄がない。
(……慣れている?)
森育ちだからか。
そう自分に言い聞かせる。
だが、違和感が消えない。
白銀の髪のあの剣士。
間合いの取り方。
無駄のない立ち姿。
目の前の少女の、この静かな安定感。
重なる。
否定する。
ーーあの剣士は少年だ。
だが、胸の奥で別の声が囁く。
あの時、自分は瘴気を吸っていた。
視界は霞み、意識も万全ではなかった。
記憶も、どこか曖昧だ。
あの剣士を、少年だと思った根拠は何だった?
細身だったからか。
声が若く響いたからか。
ーー違う。
ーーそうだーー……自分は、認めたくなかったのだ‼
龍に追いつめられ、意識も曖昧なままーー
救われたのが、少年ではなく、少女だったなど。
騎士である自分が。
剣を誇りとしてきた自分が。
少女に命を救われたなど。
どこかで、受け入れ難かったのではないか。
男としての矜持が。
騎士としての誇りが。
「自分は守る側であるはずだ」と無意識に抵抗していたのかもしれない。
だから都合よく少年の姿を思い描いた。
胸の奥に、苦いものが沈む。
誇りは時に、真実を曇らせる。
ベイルは苦笑いを浮かべ、息をひとつ落とした。
そして今ーー
背中越しに伝わる、馬上での少女の体温と、時折流れてくる柔らかな髪。
触れるわけではないのに、その距離の近さに、心がざわつく。
胸の中で、確信ではなくただ予感だけが揺れる。
もしかするとーーあの剣士は、この少女なのかもしれない……と。
まだ口に出すには早い。けれど、心は確かに揺れていた。