騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 夕暮れが湖面を鈍く染める。
 空気が冷え始める。

 レオニードが軽く肩を(すく)める。
 
 「さて……そろそろ日が沈みそうだ。この辺りで夜を明かすのは、少々骨が折れそうで勘弁したいね」

 わざと柔らかい声。
 少女とベイルの二人の間の緊張がわずかにほどけた。

 「近くに村でもあれば助かるのだがーー案内を頼む、とまでは言わないが、道を教えてもらえれば助かるよ」

 少女は、きゅっとマントの端を握りしめる。
 まだ背筋は硬い。
 けれど視線が、ほんの一瞬だけ和らぐ。

 「……森は、夜になると危ない」

 小さな声。

 それは、拒絶ではない。
 事実を告げる声。

 少しの間を置いて、

 「ついてくるなら……はぐれないで」

 ベイルはわずかに顎を引いた。

 「礼を言う」

 それ以上は何も言わない。
 だが視線は一瞬だけ、彼女の横顔に向けられる。

 (やはり、この少女……)

 胸の奥で疑念が静かに(くすぶ)る。

 レオニードの口元が緩む

「では、お嬢さんの後ろに続くとしますか」
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