騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 ベイルはそのまま、セレスティアの手首を軽く引き、

 体制を崩さないよう支え直した。

 一瞬だけ、周囲へ視線を向ける。

 それだけで、空気がわずかに静まる。

 「悪いが、少し外す」

 声は落ち着いている。
 だが、余地はない。

 「後は任せる」

 誰にともなく告げる。
 それで十分だった。

 返事を待たない。

 そのまま踵を返す。

 セレスティアの歩幅に合わせ、無理のない速度で人の輪を抜けていく。

 ざわめきが、背後へと遠ざかる。

 「……すみません」

 かすれるような声。

 ベイルは答えない。

 ただ、支える手の力をわずかに強めた。

 (……喋らなくていい)

 言葉にはしない。

 だが、その沈黙がそれを示していた。

 屋敷へ続く石畳に出る頃には、音楽も、人の声も、すでに遠い。

 風だけが、静かに通り抜けた。
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