騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした

第二話「婚約披露の中で」

 ベイルの隣に戻ったセレスティアは、再び人の輪の中に立っていた。

 同じようなやりとりが続く。

 祝辞。
 笑顔。
 探るような言葉。

 そのすべてを、ベイルは崩さず受け流し、
 セレスティアはその隣で、静かに応じていく。

 少しづつ、肩に重みが積もっていく。

 その合間に、給仕が静かにグラスを差し出した。

 反射的に、ベイルはそれを受け取る。

 一拍遅れて、セレスティアにも同じ物が渡る。


 そのまま、特に意識もせずーー

 セレスティアは口をつけた。


 一口。

 喉を通る感覚はやわらかく、ほのかに甘い。

 (……飲みやすい)

 そう思ったのが最初だった。



 時間が経つ。

 会話は途切れない。

 人は入れ替わる。

 けれど視線は、常にどこかにある。


 少しずつ、思考がゆるくなる。

 音が遠くなるわけではない。
 けれど、輪郭がやわらぐ。


 「セレスティア」


 名を呼ばれる。

 振り向くと、すぐ近くにベイルがいた。

 その視線が、わずかに険しくなる。

 「……顔が赤いな」

 「……そう、ですか?」


 自分ではよくわからない。

 けれど言われて初めて、頬の熱に気付く。

 そしてーー

 ほんのわずかに、足元が揺れた。


 「あ……」

 
 崩れかける。

 その瞬間。

 ベイルの手が、迷いなく伸びた。

 
 支える。

 引き寄せない。

 だが、離さない距離。

 
 一瞬だけ、

 距離が近づく。

 
 「……しまった」

 低く、押し殺した声。

 視線が、セレスティアの持つグラスへ落ちる。

 ーー思い出す。

 レオニード王子との晩餐。
 
 眠りに落ちた彼女。
 熱を帯びた呼吸。
 腕の中で崩れた体温。

 「そういえば……お前、酒がーー」

 言いかけて、止める。

 ーーあの時、分かっていたはずだ。

 酒に強くない。
 
 それなのに。

 (……何も言っていない)

 給仕にも。
 セレスティア自身にも。
 用意の段階でも。

 意識から抜け落ちていた。

 (……見落とした)

 「歩けるか」

 短く、問う。

 「……はい」
 
 答えは素直だ。

 だが、わずかに遅れる。

 「……俺の落ち度だ」

 低く、短く言い切る。

 視線を上げる。

 周囲にはまだ人が多い。
 笑い声も、音楽も、絶えない。

 ーーだが。このままにはしておけない。
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