騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
第二話「星降る夜の集い」
――星巡の大流星。
星降る夜の集い当日。
夜は、思っていたよりも静かだった。
南離宮の庭園には人の姿こそあるものの、婚約披露の折のような賑わいはない。
灯りは控えめに落とされ、談笑もどこか遠い。
視線を上げれば、ただ空だけが広く開けている。
「……今夜は、控えているようだな」
不意に落ちたベイルの声に、セレスティアはわずかに瞬きをした。
一瞬、意味を測りかねるような間。
だがすぐに、その言葉の指すところを理解する。
(……あ、お酒のことか)
「……はい」
小さく頷く。
「先日のこともありましたので……」
わずかに言葉を選ぶように間が落ちる。
数週間ほど前の婚約披露のガーデンパーティー。
酒に酔い、彼に支えられたこと。
ーーそれだけなら、ただの失態で済んだはずだった。
けれど。
離れる瞬間、ほんのわずかに
名残惜しいと思ってしまった自分を、まだうまく説明できない。
ベイルはほんのわずかに口元を緩めた。
「それは、妥当な判断だな」
低く落ち着いた声音。だが、その端に、ごくかすかな笑いが混じる。
セレスティアは、一瞬だけ目を瞬かせーー次いで、少しだけ頬を染めた。
「……あのような場での振る舞いは、不慣れで……ご迷惑をおかけしました」
言いながら、どこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。
「酒に弱いなら、持たないのが一番確実だ」
淡々とした口調。
だが、突き放しているわけではない。
セレスティアが、少しだけ言いにくそうに続けた。
「……ですが、飲んでみても、まるでジュースのように飲みやすくて……」
一瞬、言葉を探すように視線が揺れる。
「お酒だと気付けないものも、あるのです……」
ベイルは、一瞬だけ言葉を失った。
「……それは」
一瞬、考えるように視線を落とす。
「問題だな」
わずかに眉を寄せる。
「酒かどうかの判断がつかないなら、最初から“自分で選ぶな”」
セレスティアがわずかに目を上げる。
「信頼できる給仕か、同席者に任せろ」
「……甘いものほど、度数を隠している場合がある」
「気付いた時には遅い」
そこまでは、冷静だった。
だがーー
「しかも自覚がないまま飲むなら尚更だ」
「量も加減もわからないままーー」
言葉がわずかに速くなる。
「誰が傍にいるかも分からない状況でーー」
「無防備に飲めば、どうなるのか」
「自分で制御できない状態で、人前にいるという意味を」
一歩距離が詰まる。
「ーー分かっているのか」
言葉は、抑えたはずだった。
だが、止まらない。
気付けば、畳みかけるように口にしていた。
セレスティアは、ベイルの勢いに思わず息を呑んだ。
困ったように、視線を揺らす。
「……そんなに、危ないものなのですか……?」
小さく、そう零す。
ーーその無自覚さに。
ベイルの理性が、軋んだ。
「……他の男に、介抱されるなどーー」
一瞬、言葉が止まる。
喉が、引き攣る。
ーー想像しただけで、不快感が走る。
「……耐えられない」
ーー零れた。
ーー言った直後。
わずかに、空気が止まる。
ベイル本人ですら、一瞬遅れてそれを自覚する。
セレスティアは、一瞬言葉を失った。
「……え……」
小さく、息が漏れる。
視線が揺れて、わずかに逸れる。
頬に、熱が集まるのを自覚する。
(……今のは)
理解してしまった瞬間、余計に意識してしまう。
だが。
「……それは」
かろうじて声を整える。
「心配、しすぎではありませんか……?」
わずかに視線を上げる。
責めるでも、否定するでもなくーー
ほんの少しだけ、困ったように。
けれど。
その声音は、どこか柔らかい。
ほんのわずかに間。
ーー何かを、言いかけようとして。
「ーー邪魔をしても構わないか?」
軽やかな声が割り込む。
星降る夜の集い当日。
夜は、思っていたよりも静かだった。
南離宮の庭園には人の姿こそあるものの、婚約披露の折のような賑わいはない。
灯りは控えめに落とされ、談笑もどこか遠い。
視線を上げれば、ただ空だけが広く開けている。
「……今夜は、控えているようだな」
不意に落ちたベイルの声に、セレスティアはわずかに瞬きをした。
一瞬、意味を測りかねるような間。
だがすぐに、その言葉の指すところを理解する。
(……あ、お酒のことか)
「……はい」
小さく頷く。
「先日のこともありましたので……」
わずかに言葉を選ぶように間が落ちる。
数週間ほど前の婚約披露のガーデンパーティー。
酒に酔い、彼に支えられたこと。
ーーそれだけなら、ただの失態で済んだはずだった。
けれど。
離れる瞬間、ほんのわずかに
名残惜しいと思ってしまった自分を、まだうまく説明できない。
ベイルはほんのわずかに口元を緩めた。
「それは、妥当な判断だな」
低く落ち着いた声音。だが、その端に、ごくかすかな笑いが混じる。
セレスティアは、一瞬だけ目を瞬かせーー次いで、少しだけ頬を染めた。
「……あのような場での振る舞いは、不慣れで……ご迷惑をおかけしました」
言いながら、どこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。
「酒に弱いなら、持たないのが一番確実だ」
淡々とした口調。
だが、突き放しているわけではない。
セレスティアが、少しだけ言いにくそうに続けた。
「……ですが、飲んでみても、まるでジュースのように飲みやすくて……」
一瞬、言葉を探すように視線が揺れる。
「お酒だと気付けないものも、あるのです……」
ベイルは、一瞬だけ言葉を失った。
「……それは」
一瞬、考えるように視線を落とす。
「問題だな」
わずかに眉を寄せる。
「酒かどうかの判断がつかないなら、最初から“自分で選ぶな”」
セレスティアがわずかに目を上げる。
「信頼できる給仕か、同席者に任せろ」
「……甘いものほど、度数を隠している場合がある」
「気付いた時には遅い」
そこまでは、冷静だった。
だがーー
「しかも自覚がないまま飲むなら尚更だ」
「量も加減もわからないままーー」
言葉がわずかに速くなる。
「誰が傍にいるかも分からない状況でーー」
「無防備に飲めば、どうなるのか」
「自分で制御できない状態で、人前にいるという意味を」
一歩距離が詰まる。
「ーー分かっているのか」
言葉は、抑えたはずだった。
だが、止まらない。
気付けば、畳みかけるように口にしていた。
セレスティアは、ベイルの勢いに思わず息を呑んだ。
困ったように、視線を揺らす。
「……そんなに、危ないものなのですか……?」
小さく、そう零す。
ーーその無自覚さに。
ベイルの理性が、軋んだ。
「……他の男に、介抱されるなどーー」
一瞬、言葉が止まる。
喉が、引き攣る。
ーー想像しただけで、不快感が走る。
「……耐えられない」
ーー零れた。
ーー言った直後。
わずかに、空気が止まる。
ベイル本人ですら、一瞬遅れてそれを自覚する。
セレスティアは、一瞬言葉を失った。
「……え……」
小さく、息が漏れる。
視線が揺れて、わずかに逸れる。
頬に、熱が集まるのを自覚する。
(……今のは)
理解してしまった瞬間、余計に意識してしまう。
だが。
「……それは」
かろうじて声を整える。
「心配、しすぎではありませんか……?」
わずかに視線を上げる。
責めるでも、否定するでもなくーー
ほんの少しだけ、困ったように。
けれど。
その声音は、どこか柔らかい。
ほんのわずかに間。
ーー何かを、言いかけようとして。
「ーー邪魔をしても構わないか?」
軽やかな声が割り込む。