騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
「……心配はいりません」
セレスティアは一歩だけ近づき、ベイルに抱えられた令嬢へと、視線を落とす。
触れはしない。
だが、その視線だけで何かを確かめたように。
「一時的なものです。少し休ませれば目を覚ますと思います」
ベイルは一瞬だけ彼女を見る。
ーーいったい、何をした。
問いが喉まで上がる。
だが、口には出さない。
すでに数名の侍女と近衛が駆け寄ってきていた。
「こちらでお預かりいたします」
「離宮の控室へ」
手際よく、令嬢の体が引き取られる。
ベイルは抵抗せず、そのまま手を離した。
「頼む」
短く告げる。
運ばれていく後ろ姿を見送りながらーー
視線が、再びセレスティアへ戻る。
ーーそこにいるのは、いつもの彼女だった。
白銀へと変わっていたはずの髪は、いつの間にか灰銀へと戻り、漆黒に沈んでいた瞳も、淡い紫の光を宿している。
ーー変化した気配すら、残っていない。
あの一瞬だけが、切り取られて消えたかのように。
(……戻ったのか)
あるいは。
最初から、何も変わっていなかったかのように。
ベイルは、わずかに息を詰めた。