騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 帝都、宮廷魔術師長執務室。

 人の出入りは制限され、静寂が保たれている。

 差し出された書簡を、ノクティスは受け取った。
 ハルフォードの手を経て、封はすでに切られている。

 封蝋に刻まれている紋章はーーヴェルディア王国。
 
 紙を開く。
 視線が流れる。
 一度で読み切る。
 
 「受けたか」

 静かに呟く。
 
 書簡を机に置く。
 閉じはしない。
 
 「全面拒否はしていない」
 
 淡々とした確認。
 
 側近が控えたまま問う。

 「いかがなさいますか」
 
 ノクティスは答えない。
 もう一度だけ、文面に目を落とす。
 
 条件の列。
 監督下での滞在。
 期限の設定。
 拘束の制限。
 
 指先で、その一節を軽く押さえる。
 
 「拒否の余地は残しているが、実質は受諾(じゅだく)だ」
 
 言い切る。
 
 「来る」
 
 それだけで十分だった。
 
 側近がわずかに視線を上げる。
 
 「監督条件が付いていますが」
 
 「問題ない」
 
 即答。
 
 「制約はあるが、阻害にはならない」
 
 机を指で軽く叩く。
 
 「都合がいい」
 
 
 側近はわずかに間を置く。

 「と、言いますと」
 
 
 ノクティスは視線を上げないまま答える。
 
 「滞在が“公的なもの”になる」
 
 
 それだけだった。
 
 
 だが意味は十分に重い。
 
 
 非公式では動けない。
 だが公式であれば――動ける。
 
 
 「記録が残る」
 
 「出入りも制限される」
 
 「同行者も限定される」
 
 
 ひとつずつ、条件を確認するように言葉を置く。
 
 
 「……管理しやすい」
 
 
 結論は簡潔だった。
 その評価に迷いはなかった。
 
 
 側近が問う。
 「では、この条件で受け入れを?」
 
 
 「そうだな」
  
 迷いはない。
 
 「ただし」
 
 わずかに間。
 
 「こちらの枠に入れる」
 
 その声音だけが、わずかに硬くなる。
  
 受け入れるのではない。
 
 取り込む。
 
 
 「滞在先の指定はこちらで提案する」
 
 「監督者の選定も同様だ」
 
 
 ノクティスは再び、机上の書簡へ目を落とした。
 王国側から示された条件を、ひとつずつなぞるように視線を走らせる。
 
 
 「形式は崩していない。解釈の範囲内だ」

 「文面の調整は、ハルフォードに任せる」
 
 
 側近が静かに頷く。
 
 「……承知しました」
 
 
 ノクティスはようやく書簡から手を離した。
 
 「日程の調整を優先しろ」
 
 椅子に身を預ける。
 
 「先に場を固める」
 
 それが先だ。
 
 相手が動く前に。
 
 短い沈黙。

 「あとは、逃げる理由を奪えばいい」
 
 その呟きは、あまりにも淡々としていた。
 
 「――迎え入れる準備を」
 
 その言葉だけが、静かに部屋に残った。
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