騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
室内に、微かな衣擦れの音がした。
師と言った男が、ふと視線を奥へ向ける。
その気配に、ベイルも顔を上げた。
廊下の奥、薄明りの中から現れたのはーー
少女……ではなかった。
落ち着いた茶色を基調とした簡素な旅装。
身体の線を隠す仕立て。
腰には、見覚えのある剣。
灰銀色の長い髪は高い位置で、一つに束ねられている。
その淡紫の瞳が、まっすぐにベイルを見つめる。
髪色と瞳の色は少し違う。
だがーー
あの時、龍の前で立っていた剣士の面影が、確かに重なる。
曖昧な記憶の中で、幾度も思い返した影。
それが、今目の前にいる。
ベイルは息を吸う。
胸の奥で、何かが静かに定まった。
目の前の剣士が、口を開く。
「……改めまして。名はフェリスだ」
ベイルは一歩、わずかに距離を詰める。
右手を胸に当て、静かに名を告げた。
「……ベイル・アーデン。ヴェルディア王国第三騎士団隊長をしている」
それは誇示ではない。
肩書で押さえ付けるためでもない。
ただーー対等に名を返したかった。
フェリスは一瞬だけ目を見開き、それから、どこか楽しそうに口元を緩めた。
フェリスは、抱えていたマントをそっと差し出す。
「……これ、ありがとう」
男装の装いのままでも、その声音には、少女の気配が残っている。
「……洗って返した方が、いいかな……」
ほんの少しだけ、恥じらうように視線を逸らす。
ベイルは差し出されたマントを見つめ、短く告げた。
「……そのままでいい」
気遣いでも、遠慮でもない、ただ、それで十分だと告げる簡潔さ。
でも、どこかあたたかかった。
それはまるで、少女の姿でも、少年の姿でも、どちらのままでもいいのだとーー。
そうやさしく受け止めてくれたようにも聞こえ、フェリスの頬の奥がわずかに熱を持つ。
ベイルはそれを受け取る。
指先が、わずかに触れる。
ほんの一瞬。けれど、確かに。
マントの温もりが、まだ残っている気がした。
師と言った男が、ふと視線を奥へ向ける。
その気配に、ベイルも顔を上げた。
廊下の奥、薄明りの中から現れたのはーー
少女……ではなかった。
落ち着いた茶色を基調とした簡素な旅装。
身体の線を隠す仕立て。
腰には、見覚えのある剣。
灰銀色の長い髪は高い位置で、一つに束ねられている。
その淡紫の瞳が、まっすぐにベイルを見つめる。
髪色と瞳の色は少し違う。
だがーー
あの時、龍の前で立っていた剣士の面影が、確かに重なる。
曖昧な記憶の中で、幾度も思い返した影。
それが、今目の前にいる。
ベイルは息を吸う。
胸の奥で、何かが静かに定まった。
目の前の剣士が、口を開く。
「……改めまして。名はフェリスだ」
ベイルは一歩、わずかに距離を詰める。
右手を胸に当て、静かに名を告げた。
「……ベイル・アーデン。ヴェルディア王国第三騎士団隊長をしている」
それは誇示ではない。
肩書で押さえ付けるためでもない。
ただーー対等に名を返したかった。
フェリスは一瞬だけ目を見開き、それから、どこか楽しそうに口元を緩めた。
フェリスは、抱えていたマントをそっと差し出す。
「……これ、ありがとう」
男装の装いのままでも、その声音には、少女の気配が残っている。
「……洗って返した方が、いいかな……」
ほんの少しだけ、恥じらうように視線を逸らす。
ベイルは差し出されたマントを見つめ、短く告げた。
「……そのままでいい」
気遣いでも、遠慮でもない、ただ、それで十分だと告げる簡潔さ。
でも、どこかあたたかかった。
それはまるで、少女の姿でも、少年の姿でも、どちらのままでもいいのだとーー。
そうやさしく受け止めてくれたようにも聞こえ、フェリスの頬の奥がわずかに熱を持つ。
ベイルはそれを受け取る。
指先が、わずかに触れる。
ほんの一瞬。けれど、確かに。
マントの温もりが、まだ残っている気がした。