騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
第2章 再会の王都

第一話「王都への招待状」

 森の午後は、静かだ。

 窓から差し込む光が、木の卓の上に淡く広がっている。

 窓辺に腰かけたフェリスは、一通の手紙に目を通していた。

 見慣れない王家の紋章。
 けれど、差出人の名は知っている。

 ーーレオニード。

 思わず、唇がほころぶ。

 丁寧な筆致(ひっち)(つづ)られた文面。

 森の家で一晩過ごさせてもらった事へのお礼に始まり、
 王都への招待。
 六日間の滞在。
 離宮に部屋を用意したこと。
 王都の案内をベイルが務めること。
 等が記されていた。

 そして最後に、

 “再び会える日を心待ちにしている者としてーーあなたを歓迎する”

 その一文が、なぜか指先に残る。

 自分が“迎えられる存在”であること。
 そして、“待たれる存在”であること。

 その両方が、こんなにも心を温めるなんて。

 フェリスはそっと目を伏せる。

 「六日間……か」

 森を離れるには、少し長い。

 けれど、不安よりも、楽しみの方が大きい。

 王都。

 にぎやかで、人が多くて、きっと騒がしい場所。

 けれどそれ以上にーー
 ベイルの不器用な優しさや、愉快そうに笑うレオニード王子が浮かぶ。

 思い出すだけで、自然と頬が緩む。

 「……変なの」

 自分で自分に言って、笑う。

 森で暮らしてきた時間は、静かで満ち足りていた。

 それでも。

 人と囲む食卓の記憶は、想像上に、心に残っていたらしい。

 「王都、どんなところかな」

 独り言のように呟く。

 その時ーー

 森の奥から、かすかな馬の足音が届く。

 「……来たみたい」
 
 手紙には、迎えを寄こすと記されていた。
 
 「フェリス様。お迎えにあがりました」

 扉を開けると、見覚えのある従者が立っていた。
 ベイルとレオニード王子が、この家に来た時に、一緒に同行していた従者の騎士。

 深く一礼するその姿は、仰々(ぎょうぎょう)しくはない。
 形式ばった儀礼ではなく、気遣いの延長のような空気だった。

 「森の外れに馬車を止めてあります。ご案内いたします」

 フェリスは、そっと手紙を胸元へ滑り込ませる。
 そして、外套(がいとう)を手に取り、肩へかける。
 紐を結ぶ指先は、落ち着いている。

 「師匠。いってきます。お土産買ってくるね」

 振り返ると、シャオ・ウェンは穏やかに頷いた。

 「……楽しんできなさい」

 その一言に、背中を押される。

 「いってきます」

 フェリスは一歩、森の外へ踏み出した。
 
 これから始まる新しい景色。
 新しい時間。

 ーー二人が待つ王都へ。
 
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