騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 落ち着け、と自分に言い聞かせながら歩み寄る。

 馬車の扉が、静かに開く。

 まず目に入ったのは、華やかな衣ではない。

 揺れる外套(がいとう)の裾ーー

 深い色合いの布が、石段の上で静かに波打つ。
 その下に覗くのは、飾り気のない旅装。
 動きやすさを重んじた簡素な衣。
 
 そしてーー腰にはいつもの剣。

 王宮の華やかな衣装とはまるで違う。

 外套に身を包み、剣を携えたその姿はーー
 一見すれば、若い従騎士か、少年の旅人のようにも見える。

 だがーー

 馬車の中に差し込む光の中で顔を上げた瞬間、その印象は、静かに揺らぐ。

 澄んだ瞳。
 柔らかな頬の線。
 そして、剣を携えていても消えない、どこか静かな気配。
 見慣れた灰銀色の髪。

 王都の陽光を受けて、それは森にいた時よりも少しだけ明るく見えた。

 少年のようでいて、少年ではない。
 
 フェリスだ。

 森で見たままの、変わらない(たたず)まい。

 飾らない。
 取り繕わない。

 それが、王宮の白い石畳の前では、妙に際立つ。

 彼女は、自分の剣を携えている。
 王都に招かれた客として、ここに来た。

 守られるだけの存在ではない。

 ーーそれでも。

 ほんのわずか、ためらう。

 そして結局、考えるより先に手が伸びていた。

 「足元に気をつけて」
 
 フェリスは一瞬だけこちらを見てーー
 迷いなくその手を取る。

 外套がふわりと揺れ、彼女は自分の足で石畳に降り立つ。

 手はすぐに離れる。

 だが、確かに触れた温もりが残る。

 並んで歩くための距離。

 王宮を見上げるその横顔に、森の気配はまだ残っている。

 「……ようこそ、王都オルディナへ」

 そう告げた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。

 再会は、思っていたよりも静かで。

 思っていたより、胸に響いた。
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