騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 石畳に並び立つと、フェリスは静かに外套を整えた。
 
 ベイルの方に視線を向けるーー

 「招待してくれて、どうもありがとう」

 深く礼をするような堅さはない。
 だが、その一言には、自然な感謝が(にじ)んでいた。

 「レオニード王子がお待ちだ」

 白い石の回廊を、並んで歩く。

 高い天井、磨かれた床、規則正しく並ぶ柱。
 王宮の空気は整然としている。

 王宮特有の、整いすぎた静寂(せいじゃく)

 フェリスはゆるやかに視線を巡らせた。

 「……王宮って、どこも似てるんだね」

 ぽつり、と(こぼ)す。

 ベイルの歩みが、ほんのわずかに緩む。

 「どこも?」

 問いは低く、抑えた声。

 フェリスは肩をすくめた。

 「石造りで、広くて、空が高い。人が多いのに、妙に静かでーー少しだけ息が詰まる感じ」

 言い方は自然で、初めて見る者のそれではない。

 ベイルは横目でフェリスを見る。

 「……他国の王宮にも、行ったことがあるのか?」

 ベイルの声は軽いが、興味と確かめる気持ちが混ざっていた。

 フェリスは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに軽く笑った。

 「昔、ちょっとだけね」

 それ以上は語らない。
 
 歩みも、表情も変わらない。

 だがその一言は、確かに過去を含んでいた。

 ベイルは追及しない。

 それ以上を問う立場ではない。

 「そうか」
 
 短く返し、前を向く。

 六日間の案内役ーー。

 今は、それで十分だ。

 それよりも、今は、再会できたことーー。

 フェリスが目の前にいるという事実が、静かに胸を満たしていた。
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