騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 副官が膝をつき、地面を調べる。

 「……隊長、魔石が見当たりません」

 あり得ない言葉だった。

 龍ほどの存在を討てば、どれほど小さくとも核は残る。
 それは、騎士の間では常識だった。

 「確かに、龍だったのですよね?」

 疑う声ではない。
 だが、確信もない。

 ベイルは答えない。

 答えられなかった。

 ーーあれは、討伐ではなかった。

 胸の奥に、まだわずかに残る清らかな感覚。
 あの小瓶の温もり。

 「……わからん」

 それだけ告げて、ベイルは剣を収めた。

 白銀の髪が脳裏で揺れる。

 漆黒の瞳。

 静かで、凛として、そしてーー妙に近かった。

 肩口に触れられた温もりが、ベイルの胸に微かに響いた。

 「……あいつは、なんなんだ?」

 小さく(こぼ)した呟きは、誰にも届かない。

 ベイルは歩き出す。

 瘴気が抜けた体は軽くなったはずなのに、心だけがざわついている。
 それが何なのか、まだ分からない。

 分からないままーー

 ベイル・アーデンの胸に、初めて説明のつかない何かが芽生えたのだった。





 

 

 
 

 

 

 
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