騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした

第二話「命の恩人を探して」

 王宮の静かな執務室。
 高窓から差し込む光が、重厚な机の上に長い影を落としている。
 ベイルは幼馴染のレオニード王子の前に立ち、森で起きた異変について報告していた。

 異変といっても、龍に遭遇したのはベイルだけで、特に他に被害はみられなかったため、公式には未確認事案として処理された。

 「森の奥で、見慣れない龍が出た。瘴気も以上でーー隊から離れた俺だけが遭遇した」
 声は平静を装っているが、無意識に握った拳に力がこもる。

 レオニードは琥珀色の瞳を細め、静かに息を吐いた。
 柔らかな金髪が光を受けて揺れる。

 「なるほど…お前しか見ていないのだな。しかし、森に龍とは…にわかには信じ難いが」
 
 疑念というより、慎重な響きだった。幼馴染の言葉を頭から否定することはない。

 ベイルは一瞬、言葉を飲み込む。

 ーーあの剣士のことを話すべきか。

 龍と同じく目撃したのは、自分だけだ。それを思うとあの剣士も幻だったのではないかーー。

 脳裏に浮かぶのは、白銀の髪。
 鋭く、迷いのない剣筋。
 そして、傷口に触れた指先。
 
 胸がわずかにざわめく。

 ……相手は少年だ。

 そう言い聞かせ、思考を断ち切る。

 「……ここは、正直に話すべきだな」

 ベイルは拳を解いた。

 「……実は」

 観念したようにベイルは続けた。

 「謎の剣士に助けられた。森で負った傷を手当してくれた」

 レオニードの眉がゆっくりと上がる。

 「ほう。龍と遭遇し、命を救われ、しかも手当てまで受けた、と」

 「事実だ」

 即答。

 レオニードは椅子の背に軽く身を預けた。

 「その剣士、名は?」

 「名乗らなかった」

 「年は?」

 わずかな沈黙。

 「……年は……少年のように見えた」

 レオニードの口元がかすかに緩む。

 「お前が”少年のように”と曖昧(あいまい)に言うのは珍しいな」

 「どういう意味だ」

 「いや。お前は普段、もっと断定的だ」

 視線が交わる。

 ベイルは目を逸らした

 「……討伐大会の最中だった」

 ベイルの声は低く、抑えられている。

 「龍と遭遇した。瘴気も異常だった。正直、立っているだけで精一杯で、観察などできる余裕はなかった……。だが、白銀の髪に漆黒の瞳……それだけは、よく覚えている」

 レオニードは静かに頷く。

 「なるほど……。お前を救った命の恩人か」

 ベイルの視線は、ふと手元の小瓶に移る。

 ーーこれこそ、現実にあの剣士が存在した証拠だ。龍のことはまだ不確かでも、あの剣士は現実にいるーー。

 「手当を受けた際に、聖水の入った小瓶を渡されたのだが……これは、その時の物だ。この小瓶の出所を調べてくれないか?」

 レオニードは小瓶を手に取り、興味深そうに目を細めた。

 「面白い。……もし、その剣士が幻ではないのだとすれば、私も会ってみたいな」

 そして、軽く口元を緩め、ベイルをじっと見つめた。

 その視線に、無言のまま動揺を見透かされている気がした。

「では、まずは王宮の専門家に確認してみよう。小瓶について何かわかるかもしれない」
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