騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
内側で、静かに足音が近づく。
小さな気配。
衣擦れの音。
やがて、扉が開いた。
「ーーお待たせ」
柔らかな声。
その瞬間。
ベイルは言葉を失った。
淡い紫の衣が、燭台の光を受けてやわらかく揺れる。
髪は軽くまとめられ、後れ毛が頬に触れている。
淡紫の瞳は、うっすらと光を含んでいた。
まぶたには淡く色がのせられ、瞬きのたびに影が落ちる。
頬には自然な血色が差し、唇はほんのりと艶を帯びている。
決して派手ではない
だが、その控えめな彩りがーー
彼女の持つ静かな透明さを、ひときわ際立たせていた。
飾られたのではない。
隠れていた光が、そっと表に導かれただけ。
森で剣を振るっていた姿。
風を切る鋭さ、真っ直ぐな瞳。
けれど今ーー
その強さの奥にあった“やわらかさ”に、初めて触れてしまった気がした。
胸の奥が、わずかに熱を帯びる。
ほんの一瞬。
騎士として鍛えた平静が、完全に置き去りになる。
ーー綺麗だ。
それは、男として零れ落ちた、本音だった。
フェリスは、少しだけ首を傾げた。
「……どう……かな?」
試すようでも、媚びるでもなく。
ただ、気恥ずかしさを含んだ問い。
ベイルは、はっとする。
「……よく、お似合いです」
出てきたのは、あまりにも無難な言葉だった。
もっと何かあるだろう、と自分で思う。
だが、余計な一言を足せば、今度は声が震えそうだった。
フェリスは、ほっとしたように笑う。
「そっか。よかった」
その笑みがまた、胸の奥を搔き乱す。
(……まずい)
まだ夜は始まったばかりだというのに。
騎士として冷静でいられる自信が、早くも揺らいでいる。
それでも、ベイルは一歩引き、腕を差し出した。
「参りましょう。殿下がお待ちです」
声だけは完璧だった。
だが、その耳の先が、わずかに赤く染まっていることに、本人は気づいていない。
フェリスもまた、気づかないままーー
その腕にそっと手を添えた。
夜の回廊へ、二人は歩き出す。
燭台の灯りが、まるで舞台の幕を開くように道を照らす。
静寂に包まれた王宮の夜ーー
それは、誰かがそっと整えた始まりの場。
そしてその夜は、確かに動き出していた。
小さな気配。
衣擦れの音。
やがて、扉が開いた。
「ーーお待たせ」
柔らかな声。
その瞬間。
ベイルは言葉を失った。
淡い紫の衣が、燭台の光を受けてやわらかく揺れる。
髪は軽くまとめられ、後れ毛が頬に触れている。
淡紫の瞳は、うっすらと光を含んでいた。
まぶたには淡く色がのせられ、瞬きのたびに影が落ちる。
頬には自然な血色が差し、唇はほんのりと艶を帯びている。
決して派手ではない
だが、その控えめな彩りがーー
彼女の持つ静かな透明さを、ひときわ際立たせていた。
飾られたのではない。
隠れていた光が、そっと表に導かれただけ。
森で剣を振るっていた姿。
風を切る鋭さ、真っ直ぐな瞳。
けれど今ーー
その強さの奥にあった“やわらかさ”に、初めて触れてしまった気がした。
胸の奥が、わずかに熱を帯びる。
ほんの一瞬。
騎士として鍛えた平静が、完全に置き去りになる。
ーー綺麗だ。
それは、男として零れ落ちた、本音だった。
フェリスは、少しだけ首を傾げた。
「……どう……かな?」
試すようでも、媚びるでもなく。
ただ、気恥ずかしさを含んだ問い。
ベイルは、はっとする。
「……よく、お似合いです」
出てきたのは、あまりにも無難な言葉だった。
もっと何かあるだろう、と自分で思う。
だが、余計な一言を足せば、今度は声が震えそうだった。
フェリスは、ほっとしたように笑う。
「そっか。よかった」
その笑みがまた、胸の奥を搔き乱す。
(……まずい)
まだ夜は始まったばかりだというのに。
騎士として冷静でいられる自信が、早くも揺らいでいる。
それでも、ベイルは一歩引き、腕を差し出した。
「参りましょう。殿下がお待ちです」
声だけは完璧だった。
だが、その耳の先が、わずかに赤く染まっていることに、本人は気づいていない。
フェリスもまた、気づかないままーー
その腕にそっと手を添えた。
夜の回廊へ、二人は歩き出す。
燭台の灯りが、まるで舞台の幕を開くように道を照らす。
静寂に包まれた王宮の夜ーー
それは、誰かがそっと整えた始まりの場。
そしてその夜は、確かに動き出していた。