騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
第六話「髪飾りの告白」
翌日。
陽が高く昇る頃、王都の空は澄み渡っていた。
石畳を踏みしめる人々の足音。
通りに並ぶ露店からは、焼き立てのパンの香りや、香辛料の匂いが漂ってくる。
商人の呼び声。
馬車の車輪の音。
遠くでは楽師が笛を奏でていた。
活気に満ちた昼前の王都。
その人波の中を、二人は並んで歩いていた。
ベイルとフェリス。
けれどーー。
二人の間には、どこか微妙な静けさがあった。
ベイルは視線を前に向けたまま歩く。
(……情けない)
昨日のことを思い出す。
騎士たちに取り囲まれていたフェリス。
衝動的に手を引き、連れ出してしまった自分。
(あれでは、ただの子供だ)
嫉妬。
そんな感情に振り回されるとは思っていなかった。
(……あれは失態だった)
一晩考え、決めた。
ーー案内役に徹すると。
それ以上でも以下でもない。
隣を歩くフェリスを、ちらりと横目で見る。
いつもの簡素な旅装。
その上に外套を羽織った、剣士の姿。
王都の華やかな街並みでは、少し浮いて見えるほど質素に感じられる。
だがーー
なぜか人の目を引く。
通り過ぎる男が、ふと振り返る。
露店の店主が、少しだけ目を留める。
フェリスは、まるで気づいていない。
(……無防備なんだ)
剣士としては鋭いのに、人の感情には驚くほど鈍い。
そしてーー
そのことを本人がまるで自覚していない。
胸の奥が、また少しだけ疼く。
ベイルは小さく息を吐いた。
(落ち着け)
もう決めたただろう。
案内役だ。
「う~ん……。何がいいかな」
フェリスはきょろきょろと辺りを見回している。
露店。
織物屋。
香料店。
宝飾店。
どれも珍しいのだろう。
森の生活とは、まるで違う世界だ。
「……時間は充分ある。急がなくていい」
ベイルは短く言う。
フェリスは笑う。
「うん」
その笑顔は、昨日と変わらない。
ーーいや。
ベイルはわずかに眉を寄せる。
(……?)
何か違う気がする。
理由はわからない。
だが。
フェリスはふと、こちらを見た。
その視線が一瞬だけ止まる。
「……?」
ベイルが首を傾げる。
フェリスは慌てて目を逸らした。
「な、なんでもない」
その仕草が妙にぎこちない。
ベイルは怪訝そうに眉を寄せる。
だがフェリスは、すぐ前を指さした。
「あ、薬草のお店!」
小さな店先。
乾燥した草木が吊るされ、瓶が並んでいる。
フェリスの瞳がぱっと輝く。
「師匠のお土産、ここ見てみたい」
その言葉に、ベイルの胸が一瞬だけ重たくなる。
ーー師匠。
フェリスの剣の源。
そしてーー
自分の知らない時間のすべてを知っている男。
ベイルは小さく息を吐いた。
(……今日は案内役だ)
それだけでいい。
「わかった」
短く言って、店の扉を押した。
鈴の音が、小さくなる。
陽が高く昇る頃、王都の空は澄み渡っていた。
石畳を踏みしめる人々の足音。
通りに並ぶ露店からは、焼き立てのパンの香りや、香辛料の匂いが漂ってくる。
商人の呼び声。
馬車の車輪の音。
遠くでは楽師が笛を奏でていた。
活気に満ちた昼前の王都。
その人波の中を、二人は並んで歩いていた。
ベイルとフェリス。
けれどーー。
二人の間には、どこか微妙な静けさがあった。
ベイルは視線を前に向けたまま歩く。
(……情けない)
昨日のことを思い出す。
騎士たちに取り囲まれていたフェリス。
衝動的に手を引き、連れ出してしまった自分。
(あれでは、ただの子供だ)
嫉妬。
そんな感情に振り回されるとは思っていなかった。
(……あれは失態だった)
一晩考え、決めた。
ーー案内役に徹すると。
それ以上でも以下でもない。
隣を歩くフェリスを、ちらりと横目で見る。
いつもの簡素な旅装。
その上に外套を羽織った、剣士の姿。
王都の華やかな街並みでは、少し浮いて見えるほど質素に感じられる。
だがーー
なぜか人の目を引く。
通り過ぎる男が、ふと振り返る。
露店の店主が、少しだけ目を留める。
フェリスは、まるで気づいていない。
(……無防備なんだ)
剣士としては鋭いのに、人の感情には驚くほど鈍い。
そしてーー
そのことを本人がまるで自覚していない。
胸の奥が、また少しだけ疼く。
ベイルは小さく息を吐いた。
(落ち着け)
もう決めたただろう。
案内役だ。
「う~ん……。何がいいかな」
フェリスはきょろきょろと辺りを見回している。
露店。
織物屋。
香料店。
宝飾店。
どれも珍しいのだろう。
森の生活とは、まるで違う世界だ。
「……時間は充分ある。急がなくていい」
ベイルは短く言う。
フェリスは笑う。
「うん」
その笑顔は、昨日と変わらない。
ーーいや。
ベイルはわずかに眉を寄せる。
(……?)
何か違う気がする。
理由はわからない。
だが。
フェリスはふと、こちらを見た。
その視線が一瞬だけ止まる。
「……?」
ベイルが首を傾げる。
フェリスは慌てて目を逸らした。
「な、なんでもない」
その仕草が妙にぎこちない。
ベイルは怪訝そうに眉を寄せる。
だがフェリスは、すぐ前を指さした。
「あ、薬草のお店!」
小さな店先。
乾燥した草木が吊るされ、瓶が並んでいる。
フェリスの瞳がぱっと輝く。
「師匠のお土産、ここ見てみたい」
その言葉に、ベイルの胸が一瞬だけ重たくなる。
ーー師匠。
フェリスの剣の源。
そしてーー
自分の知らない時間のすべてを知っている男。
ベイルは小さく息を吐いた。
(……今日は案内役だ)
それだけでいい。
「わかった」
短く言って、店の扉を押した。
鈴の音が、小さくなる。