騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
二人は店の中へ入った。
店内は外より少し暗く、静かだった。
棚にはガラス瓶や麻袋が並び、その中には色とりどりの乾燥した葉や花が詰められている。
フェリスは興味深そうにそれらを見て回る。
「これは……」
指先で瓶の札を読む。
「眠り草……」
「知っているのか」
フェリスは小さく笑った。
「師匠が、よく煎じてくれて……」
その言葉に、ベイルの視線がわずかに動く。
「師匠は薬草に詳しいのか?」
「すごく詳しいよ」
「熱を出した時などは、変な匂いの薬を作ってくれて」
「変な匂い?」
「苦くて、土みたいな匂いで……でも、すごく効くの」
フェリスはくすりと笑う。
その笑顔は、とても柔らかかった。
森の話をする時の顔。
ベイルは、ほんの少しだけ目を細める。
「……随分、世話になっているのだな」
フェリスは瓶を棚へ戻しながら頷く。
「剣も、術も、薬草も、生活も、全部師匠に教えてもらったから……」
そして、棚の奥の瓶を手に取る。
「……あ」
ラベルを見て、小さく声をあげる。
「これ、森では見たことがない」
中には、淡い銀色の乾いた花びらが入っていた。
「香りづけの薬草らしい。お茶に混ぜると、香りが立つって」
瓶の蓋をそっと開ける。
柔らかい香りが広がった。
フェリスの目が楽しそうに細くなる。
「師匠、こういうの好きそう」
その表情はとても自然だった。
ベイルは横でそれを見ている。
ーーあの男のために。
王都で見つけたものを、嬉しそうに選んでいる。
胸の奥に、小さな棘のようなものが残る。
フェリスは店主に声をかけた。
「これと……それから、こっちの方も少し」
数種類の薬草を選ぶ。
乾燥花。
香り草。
細かく刻まれた茶用の葉。
どれも、森ではあまり見ないものだった。
包みを作りながら、店主がにこりと笑う。
「お師匠さんへのお土産かい?」
フェリスは頷いた。
「はい」
店主は少し感心したように目を細める。
「師匠想いのお弟子さんだね」
そう言ってから、ふと思い出したように棚の奥を探る。
「そうだ。これも持っていきな」
小さな紙包みを、ぽんと上に乗せた。
フェリスが首をかしげる。
「これは……?」
「香り草の若葉だ。まだあまり出回っていないが、煎じるとすっきりとした香りが出る」
「……ありがとうございます」
「そんな顔して土産を選んでるんだ。そのお師匠さんとやらも、きっといい人なんだろう」
フェリスは少し驚いたように、そして嬉しそうに包みを受け取った。
「師匠、きっと喜びます」
その声は、どこか弾んでいる。
店を出ると、再び王都の光が広がった。
フェリスは包みを見て、小さく笑う。
「王都の人も、優しいね」
ベイルは横でそれを見ている。
ーーフェリスの師。
薄灰色の長衣を纏った、長い黒髪に、翡翠色の瞳を持つ男。
フェリスの剣の師だと聞いていなければ、どこかの学者か、旅の詩人にでも見えただろう。
力を誇示する気配はない。
それなのにーー
どこか不用意に近づくことを許さないような、不思議な空気を纏っていた。
まるで、そこに見えない境界があるかのように。
(……厄介だな)
敵ではない。
だがーー
勝てる気が、まったくしない。
長い時間を共に過ごし、信頼を積み重ねてきた相手に。
そして、フェリスがあんな顔で土産を選ぶ相手に……。
ベイルは、小さく息を吐き、視線を前へ戻した。
「……行こうか」
店内は外より少し暗く、静かだった。
棚にはガラス瓶や麻袋が並び、その中には色とりどりの乾燥した葉や花が詰められている。
フェリスは興味深そうにそれらを見て回る。
「これは……」
指先で瓶の札を読む。
「眠り草……」
「知っているのか」
フェリスは小さく笑った。
「師匠が、よく煎じてくれて……」
その言葉に、ベイルの視線がわずかに動く。
「師匠は薬草に詳しいのか?」
「すごく詳しいよ」
「熱を出した時などは、変な匂いの薬を作ってくれて」
「変な匂い?」
「苦くて、土みたいな匂いで……でも、すごく効くの」
フェリスはくすりと笑う。
その笑顔は、とても柔らかかった。
森の話をする時の顔。
ベイルは、ほんの少しだけ目を細める。
「……随分、世話になっているのだな」
フェリスは瓶を棚へ戻しながら頷く。
「剣も、術も、薬草も、生活も、全部師匠に教えてもらったから……」
そして、棚の奥の瓶を手に取る。
「……あ」
ラベルを見て、小さく声をあげる。
「これ、森では見たことがない」
中には、淡い銀色の乾いた花びらが入っていた。
「香りづけの薬草らしい。お茶に混ぜると、香りが立つって」
瓶の蓋をそっと開ける。
柔らかい香りが広がった。
フェリスの目が楽しそうに細くなる。
「師匠、こういうの好きそう」
その表情はとても自然だった。
ベイルは横でそれを見ている。
ーーあの男のために。
王都で見つけたものを、嬉しそうに選んでいる。
胸の奥に、小さな棘のようなものが残る。
フェリスは店主に声をかけた。
「これと……それから、こっちの方も少し」
数種類の薬草を選ぶ。
乾燥花。
香り草。
細かく刻まれた茶用の葉。
どれも、森ではあまり見ないものだった。
包みを作りながら、店主がにこりと笑う。
「お師匠さんへのお土産かい?」
フェリスは頷いた。
「はい」
店主は少し感心したように目を細める。
「師匠想いのお弟子さんだね」
そう言ってから、ふと思い出したように棚の奥を探る。
「そうだ。これも持っていきな」
小さな紙包みを、ぽんと上に乗せた。
フェリスが首をかしげる。
「これは……?」
「香り草の若葉だ。まだあまり出回っていないが、煎じるとすっきりとした香りが出る」
「……ありがとうございます」
「そんな顔して土産を選んでるんだ。そのお師匠さんとやらも、きっといい人なんだろう」
フェリスは少し驚いたように、そして嬉しそうに包みを受け取った。
「師匠、きっと喜びます」
その声は、どこか弾んでいる。
店を出ると、再び王都の光が広がった。
フェリスは包みを見て、小さく笑う。
「王都の人も、優しいね」
ベイルは横でそれを見ている。
ーーフェリスの師。
薄灰色の長衣を纏った、長い黒髪に、翡翠色の瞳を持つ男。
フェリスの剣の師だと聞いていなければ、どこかの学者か、旅の詩人にでも見えただろう。
力を誇示する気配はない。
それなのにーー
どこか不用意に近づくことを許さないような、不思議な空気を纏っていた。
まるで、そこに見えない境界があるかのように。
(……厄介だな)
敵ではない。
だがーー
勝てる気が、まったくしない。
長い時間を共に過ごし、信頼を積み重ねてきた相手に。
そして、フェリスがあんな顔で土産を選ぶ相手に……。
ベイルは、小さく息を吐き、視線を前へ戻した。
「……行こうか」