騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 会計を済ませ、二人は店を出た。

 店の戸を押して外に出ると、通りのざわめきが耳に戻ってきた。
 
 王都の通りは相変わらずの賑わいだ。

 その中に、軽やかな鈴の音が混じっている。

 「さあさあ、皆さまご注目!」

 通りの少し先で、派手な衣装の男がくるくると身軽に回っている。

 赤と金の帽子、白く塗られた顔。

 道化師(どうけし)だった。

 子供たちが歓声をあげて集まっている。

 フェリスはその様子に目を止めた。

 「……あれ、何?」

 「大道芸だな」

 ベイルは一瞥(いちべつ)して答える。

 道化師は空の帽子を高く掲げて見せた。

 「何もありませんね?」

 そう言うと、帽子の中に手を入れる。

 次の瞬間ーー

 ぱっと色鮮やかな花束が飛び出した。

 周囲から拍手が起こる。

 フェリスの目が大きくなる。

 「……わあ」
 
 道化師は得意げに笑うと、観客の中を見回した。

 そして、フェリスを見つける。

 「おや、そこの剣士さん」

 軽やかな足取りで近づいてきた。

 フェリスは少し戸惑ったように立ち尽くす。

 道化師は両手を広げて見せる。
 そこには何もない。

 「よく見ててくださいよ」
 
 指を鳴らす。

 ぱっと手のひらに一輪の花が現れた。

 フェリスの口が小さく開く。

 「わっ!……」
 
 道化師はにこりと笑った。

 「ぜひ、祭りに来てくださいね」

 そう言って、ひょいとフェリスの髪に花を挿す。

 「きっと楽しいよ」

 くるりと回り。帽子を掲げる。

 「王都祭り!明日から三日間開催だよ~!」

 鈴を鳴らしながら、道化師は次の通りへと軽やかに去っていった。

 フェリスはしばらくその場に立っている。

 それから慌てて髪に触れる。

 「え、えっと……」

 剣士の格好のまま、髪に花が挿さっている。

 少し困ったようにベイルを見た。

 「……変じゃない?」
 
 ベイルは一瞬フェリスを見つめーー
 思わず、くすっと笑った。

 「……いや、似合っている」

 フェリスは目を瞬く。

 それから少しだけ頬を赤くした。

 「そ、そう?」

 それでも、花は抜かず、そっと触れる。

 「でも……」

 少し困った顔で呟く。
 
 「……これ、どうしよう」

 剣士の格好に花。

 自分でも少し不自然な気がして、可笑(おか)しい。

 ベイルは肩をすくめた。

 「そのままでいいんじゃないか」
 
 フェリスは少し考えてーー

 それから小さく笑った。

 「……じゃあ、そうする」

 フェリスは、道化師が去っていった通りをしばらく見つめていた。

 遠くで、鈴の音がまだかすかに響いている。

 髪に挿された花にそっと触れ、小さく呟く。
 
 「お祭り……かぁ」

 それからベイルを振り向く。

 「ベイル……私、お祭りに行ってみたい」
 
 ベイルは一瞬だけ黙る。

 「……祭りか」

 そう言えば、そんな時期だったなと思い出す。

 本当は明日、別の場所を案内するつもりだったのだがーー。

 フェリスの期待に満ちた目を見ると、小さく息をつく。

 「まぁ、いい」

 「案内役として付き合おう」

 フェリスは嬉しそうに笑った。
  
 「ありがとう!……楽しみ」

 ……そんな顔をされると、悪くない気がしてくる。
 
 髪に挿した花が、歩くたびに小さく揺れる。

 ベイルはそれを横目で見て、ふっと息をついた。

 ーー明日は、賑やかな一日になりそうだ。
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