騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした

第七話「二つの気持ち」

 翌日。

 窓から差し込む昼の光が、部屋を柔らかく照らしていた。

 祭りへ出かける支度のため、フェリスは姿見の前に立っている。

 普段はあまり身に着けない装いに、どこか落ち着かない気持ちになる。

 リタは背後から、最後の仕上げに髪を整えていた。

 「こちらでよろしいでしょうか」

 リタは鏡越しにフェリスの表情をそっと確かめた。

 「ありがとう、リタ」

 今日の装いは、街へ出るための軽い外出着だった。

 やわらかな生成り色のドレス。
 腰には細いリボンが結ばれ、裾には控えめな刺繍が入っている。

 その上から羽織るのは、薄い青灰色のショートマント。
 落ち着いた色合いが、胸元の装飾を引き立てていた。

 そしてーー

 リタがそっと、例の髪留めを手に取る。

 細い銀の髪留め。
 台座には、小さな深い青の石。

 「では、こちらを」

 リタはフェリスの髪を軽くまとめ、耳の後ろ辺りにその髪留めを差し込んだ。

 銀が光り、青い石が、夜空のように静かに輝く。

 深い青が、灰銀色の髪の色によく映えている。

 フェリスは鏡の中の自分を見つめた。

 ふと、腰のあたりに手をやりかけて止まる。

 いつもならそこに、剣の柄があるはずだった。

 今日はそれがないーー。

 少しだけ、落ち着かない。

 一度、静かに息を吐く。


 「……似合う、かな」

 小さく呟いて、少し、恥ずかしそうに視線をそらした。


 リタは満足そうに微笑んだ。

 「ええ、とても」

 そして、どこか楽し気な光が、その瞳に宿る。

 ベイルがこの姿を見た時のことを、リタは少しだけ想像していた。

 くすっと、小さく笑う。

 「……ベイル様、ご自分の(おっしゃ)ったことを後悔なさるかもしれませんわね」

 その名前を聞いた瞬間ーー

 フェリスの頬が、ほんのり赤く染まった。
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