騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 離宮の回廊に、静かな足音が近づいてきた。

 やがて扉が軽く開かれる。

 「ベイル様がお迎えにいらっしゃいました」

 リタがそう告げる。
 その後ろで、少し遅れてベイルが姿を現した。

 騎士服に身を包んだその姿は、いつも通り落ち着いて見えたーー

 だが。

 フェリスの姿を見た瞬間、彼の足がわずかに止まった。

 やわらかな生成り色の外出着。軽いマント。
 滞在初日の晩餐の夜に見たドレス姿とも、普段の剣士姿とも違う。

 視線がゆっくりと上がる。

 整えられた灰銀色の髪。

 その耳の後ろで、小さな銀の髪留めが光っていた。

 深い青の石。

 ベイルの視線が、そこに一瞬だけ留まる。


 ーー自分が贈ったものだった。


 それが、思っていた以上によく似合っている。
 
 「……」

 ベイルは思わず、口元に手を当てた。

 言葉が出ない……。

 胸の奥が、静かに熱を帯びる。


 その沈黙に、フェリスが少し戸惑ったように視線を落とす。

 「……おかしいかな?」

 小さな声で尋ねる。

 ベイルははっと我に返った。

 「いや」

 すぐに首を振る。

 「そうではない」
 
 言葉をさ探すように一瞬だけ視線を逸らし、それから低く言った。

 「……思っていた以上で、少し驚いた」

 その一言に、フェリスの頬がほんのり赤くなる。

 リタが横で、くすりと小さく笑った。
 二人の様子を、どこか楽しそうに眺めている。

 「……まあ」

 「これはもう、お祭りどころではありませんわね」

 ベイルは軽く咳払いをすると、姿勢を整える。

 それから、改めてフェリスへ視線を向けた。

 そしてフェリスの前へ歩み寄る。

 右手を胸元に当て、軽く礼をする。
 それから、静かに手を差し出した。

 「参りましょう、フェリス」
 
 その声は、どこか柔らかかった。

 差し出された手を、フェリスは一瞬だけ見つめる。

 普段なら並んで歩くだけだったーー。

 だが今日は違う。

 まるで本当に、どこかの令嬢になったような気がしてしまう。

 ほんの少し迷ってから、そっと手を重ねた。

 ベイルの指が、その手を受け止める。
 一瞬だけ、強くその手を握る。

 それから、優しく包み込んだ。

 フェリスの手を、離さないようにするかのように。

 「城門を出て少し行けば、祭りの通りに出る」

 そう言って、もう一度何かを確かめるように、フェリスを見た。
 
 そして、何事もないように歩きだしたーー。
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