騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
「当たれば、景品がもらえるの」
まるで、子供のように素直な表情に、ベイルは思わず目を細める。
ーー楽しそうだ。
胸の奥が温かくなる。
「やってみるか?」
そういって、ベイルは屋台の主に銅貨を渡した。
「一回頼む」
屋台の主人が笑いながら棒をフェリスに三本渡す。
「はいよお嬢さん」
フェリスは一本手に取る。
少しだけ重さを確かめ、無意識に指先で重心を測った。
軽い。
距離を測り、高さを見る。
ほんの一瞬の間。
そして、何気ない動作で投げた。
カン。
一番奥の的が、綺麗に倒れた。
「お?」
屋台の主人が目を丸くする。
フェリスは少し考えて、二本目を投げた。
カン。
また倒れる。
周りから、小さなどよめきが起こる。
フェリスは三本目を持った。
ほんの少しだけ手首を返す。
カン。
最後の的が倒れた。
一瞬、静まり返る。
フェリスが、呟く。
「……当たった」
「お見事!」
屋台の店主が声をあげる。
周囲が一斉にざわめいた。
ベイルは顔を片手で覆った。
「……やりすぎだ」
少しだけ、フェリスに的当てをさせたことを後悔する。
「全部倒したぞ!」
「……すげえ」
「しかも、あんな可愛いお嬢さんが……」
その言葉に、ベイルがぴくりと反応する。
ほんの少しだけ立つ位置を変え、フェリスの前に出る形になった。
それから小さく笑った。
「……お前も人気じゃないか」
「えっ?」
言われてみると、いつの間にか、視線が集まっている。
フェリスは少し戸惑ったように視線を泳がせた。
「……そういうつもりじゃなかったんだけど」
屋台の主が笑いながら景品を差し出した。
「ほら、お嬢さん。大当たりだ」
小さなペンダントだった。
細い銀の枠に、淡い紫の小さなガラス石がはめ込まれている。
飾り気は少ないが、よく見ると石の中に柔らかな揺らぎがあり、職人の手で作られたガラス細工だと分かる。
フェリスはそれを受け取った。
陽の光にかざす。
ガラス石は光を受けて、やわらかく色を変えた。
「……」
その色を見た瞬間、ふと昨日のことを思い出す。
ーー髪飾り。
そして、リタの言葉。
『貴族の恋人同士では、お互いの髪や瞳の色に似た装飾品を相手に贈るのには特別な意味があるのです……』
淡い紫。
ーー自分の瞳の色。
胸の奥が、少しだけ落ち着かなくなる。
フェリスは無意識にベイルの方を見る。
ベイルは、「ん?」と首を傾げた。
(……これ)
手の中のペンダントを見る。
一歩、踏み出しかけてーー
止まる。
ベイルは何も言わずにこちらを見ていた。
胸の奥が落ち着かない。
こんな意味のあるものを。
軽く渡していいのかーー
ベイルの想いは、分かっているはず……。
けれどーー
自分は、まだ答えを出せていない。
フェリスは小さく息を吐く。
指先で、もう一度だけペンダントを握り直す。
それから、腰の小さな巾着を開いた。
ペンダントを見つめる。
ほんの一瞬だけ迷ってから、そっと中にしまう。
「……ありがとう」
屋台の主に向かって軽く頭を下げる。
それから、何事もなかったように歩き出した。
「よかったな」
ベイルが、優しく声をかける。
フェリスは少しだけ視線を逸らした。
「……うん」
それだけ答える。
フェリスは巾着の中のペンダントを、そっと指先で確かめた。
胸の奥は、まだ少しだけ落ち着かなかった。
「次は、あれでも見てみるか」
ベイルが何気なく言って歩き出す。
いつの間にか、通りには夕方の光が差し込み始めていた。
屋台の灯りが、一つ、また一つと灯り始める。
祭りの喧騒は、昼とは違う熱を帯びていく。
フェリスもその後ろを歩き出す。
だが、少しだけ歩調が合わない。
気付かぬうちに、フェリスの足取りがほんのわずかに遅くなっていた。
そのわずかな変化に、ベイルは目を留める。
フェリスは、どこか思い詰めたように視線を落としていた。
ベイルは足を止める。
「どうした?」
不意に声をかけられ、フェリスは顔を上げた。
「急に静かになったな」
「……そう?」
ベイルが少しだけ眉を寄せた。
「疲れたのか?」
フェリスは一瞬言葉に詰まり、首を振る。
「……大丈夫」
だがベイルは周囲の人波を見回し、小さく息を吐いた。
それから、フェリスの様子をもう一度確かめるように視線を向ける。
「いや、この人混みだ」
「少し休もう」
そう言って、ベイルはフェリスの背に軽く手を添えた。
人波から遠ざけるように、通りの端へ導く。
まるで、子供のように素直な表情に、ベイルは思わず目を細める。
ーー楽しそうだ。
胸の奥が温かくなる。
「やってみるか?」
そういって、ベイルは屋台の主に銅貨を渡した。
「一回頼む」
屋台の主人が笑いながら棒をフェリスに三本渡す。
「はいよお嬢さん」
フェリスは一本手に取る。
少しだけ重さを確かめ、無意識に指先で重心を測った。
軽い。
距離を測り、高さを見る。
ほんの一瞬の間。
そして、何気ない動作で投げた。
カン。
一番奥の的が、綺麗に倒れた。
「お?」
屋台の主人が目を丸くする。
フェリスは少し考えて、二本目を投げた。
カン。
また倒れる。
周りから、小さなどよめきが起こる。
フェリスは三本目を持った。
ほんの少しだけ手首を返す。
カン。
最後の的が倒れた。
一瞬、静まり返る。
フェリスが、呟く。
「……当たった」
「お見事!」
屋台の店主が声をあげる。
周囲が一斉にざわめいた。
ベイルは顔を片手で覆った。
「……やりすぎだ」
少しだけ、フェリスに的当てをさせたことを後悔する。
「全部倒したぞ!」
「……すげえ」
「しかも、あんな可愛いお嬢さんが……」
その言葉に、ベイルがぴくりと反応する。
ほんの少しだけ立つ位置を変え、フェリスの前に出る形になった。
それから小さく笑った。
「……お前も人気じゃないか」
「えっ?」
言われてみると、いつの間にか、視線が集まっている。
フェリスは少し戸惑ったように視線を泳がせた。
「……そういうつもりじゃなかったんだけど」
屋台の主が笑いながら景品を差し出した。
「ほら、お嬢さん。大当たりだ」
小さなペンダントだった。
細い銀の枠に、淡い紫の小さなガラス石がはめ込まれている。
飾り気は少ないが、よく見ると石の中に柔らかな揺らぎがあり、職人の手で作られたガラス細工だと分かる。
フェリスはそれを受け取った。
陽の光にかざす。
ガラス石は光を受けて、やわらかく色を変えた。
「……」
その色を見た瞬間、ふと昨日のことを思い出す。
ーー髪飾り。
そして、リタの言葉。
『貴族の恋人同士では、お互いの髪や瞳の色に似た装飾品を相手に贈るのには特別な意味があるのです……』
淡い紫。
ーー自分の瞳の色。
胸の奥が、少しだけ落ち着かなくなる。
フェリスは無意識にベイルの方を見る。
ベイルは、「ん?」と首を傾げた。
(……これ)
手の中のペンダントを見る。
一歩、踏み出しかけてーー
止まる。
ベイルは何も言わずにこちらを見ていた。
胸の奥が落ち着かない。
こんな意味のあるものを。
軽く渡していいのかーー
ベイルの想いは、分かっているはず……。
けれどーー
自分は、まだ答えを出せていない。
フェリスは小さく息を吐く。
指先で、もう一度だけペンダントを握り直す。
それから、腰の小さな巾着を開いた。
ペンダントを見つめる。
ほんの一瞬だけ迷ってから、そっと中にしまう。
「……ありがとう」
屋台の主に向かって軽く頭を下げる。
それから、何事もなかったように歩き出した。
「よかったな」
ベイルが、優しく声をかける。
フェリスは少しだけ視線を逸らした。
「……うん」
それだけ答える。
フェリスは巾着の中のペンダントを、そっと指先で確かめた。
胸の奥は、まだ少しだけ落ち着かなかった。
「次は、あれでも見てみるか」
ベイルが何気なく言って歩き出す。
いつの間にか、通りには夕方の光が差し込み始めていた。
屋台の灯りが、一つ、また一つと灯り始める。
祭りの喧騒は、昼とは違う熱を帯びていく。
フェリスもその後ろを歩き出す。
だが、少しだけ歩調が合わない。
気付かぬうちに、フェリスの足取りがほんのわずかに遅くなっていた。
そのわずかな変化に、ベイルは目を留める。
フェリスは、どこか思い詰めたように視線を落としていた。
ベイルは足を止める。
「どうした?」
不意に声をかけられ、フェリスは顔を上げた。
「急に静かになったな」
「……そう?」
ベイルが少しだけ眉を寄せた。
「疲れたのか?」
フェリスは一瞬言葉に詰まり、首を振る。
「……大丈夫」
だがベイルは周囲の人波を見回し、小さく息を吐いた。
それから、フェリスの様子をもう一度確かめるように視線を向ける。
「いや、この人混みだ」
「少し休もう」
そう言って、ベイルはフェリスの背に軽く手を添えた。
人波から遠ざけるように、通りの端へ導く。