騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
数日後。
森に一通の手紙が届いた。
王都からの使い。
それは、第三騎士団の紋章を佩した騎士だった。
返書を預かるため、その騎士は外で待機するという。
封には、使いの騎士と同じ第三騎士団の紋章が押されている。
わずかに、指先に力が入る。
静かに封を切った。
中には、簡素に整えられた筆跡。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
フェリス
無事に森へ戻ったと聞き、安心した。
王都での時間は、短いものではあったがーー
こちらにとっては、思っていた以上に意味のあるものだった。
……フェリスにとっても、そうであったならいいと思う。
渡されたものは、確かに受け取った。
あれが何を意味するのか、俺なりに考えている。
もし、その認識に大きな違いがないのならーー
一度、改めて話がしたい。
王都でも、どこでも構わない。
ただ、今度はーー
案内役としてではなく、俺自身として会いたい。
ベイル・アーデン
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読み終えたあとも、しばらく手紙から目を離せなかった。
「……」
静かな室内。
風が、わずかに紙を揺らす。
フェリスは、ゆっくりと手紙を折りたたむ。
机の上に置く。
そのまま、しばらく動かなかった。
視線だけが、そこに留まる。
ーー案内役としてではなく。
脳裏に、その一文が残る。
「……」
小さく、息を吐いた。
指先が、わずかに震える。
気づかないふりをするように、手を引いた。
目の前に、紙とペン。
いつものように、何かを書くためのもの。
けれど、今は、ほんの一言でさえ、重く感じる。
胸の奥が、わずかにざわつく。
目を閉じる。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけーー
再び王都へ行く自分を、想像した。
石畳の道。
あの場所。
再び、あの人と向き合う光景。
胸が、かすかに強く脈打つ。
小さく、首を振る。
それは、自分が選んできた道ではない。
ここでの暮らし。
ここでの剣。
積み重ねてきたもの。
簡単に離れていいものではない。
それにーー
(……まだ)
自分にの中にあるものに、名前をつけられていない。
そのまま向き合えば、きっと揺らぐ。
いや、もう揺らいでいる。
だから。
「……行かない」
はっきりと、そう口にした。
決めるように。
何度も書きなおすことはしなかった。
迷えば、言葉が濁ると分かっていたから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベイル
手紙、受け取りました。
無事に戻っています。
王都では色々と、ありがとう。
渡したものについては、
……あなたの考えていることと、大きくは違ってはいないと思います。
けれど、それをどうするかを決めるには、まだ時間が必要です。
今は、この場所でやるべきことを続けたいと思っています。
だから、今回の話は受けられません。
ただーー
いつか、自分の中で答えが出たときには、その時はきちんと向き合うつもりです。
フェリス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書き終えたあと、しばらくその文面を見つめた。
必要なことは、すべて書いてある。
余計なものは、一つもない。
それでもーー
ほんの少しだけ、息が詰まる。
手紙を折る。
封をする。
それで、終わりのはずだった。
使いの騎士に手紙を渡し、見送る。
森の中へと去っていく背中。
やがて見えなくなる。
静けさが戻る。
フェリスは、その場に立ち尽くしたまま、動かなかった。
胸の奥に、わずかな重さが残る。
「……これでいい」
自分に言い聞かせるように、呟く。
返事はした。
選んだ。
それでいい。
それなのにーー
なぜか、ほんの少しだけ。
何かを置いてきてしまったような気がした。
森に一通の手紙が届いた。
王都からの使い。
それは、第三騎士団の紋章を佩した騎士だった。
返書を預かるため、その騎士は外で待機するという。
封には、使いの騎士と同じ第三騎士団の紋章が押されている。
わずかに、指先に力が入る。
静かに封を切った。
中には、簡素に整えられた筆跡。
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フェリス
無事に森へ戻ったと聞き、安心した。
王都での時間は、短いものではあったがーー
こちらにとっては、思っていた以上に意味のあるものだった。
……フェリスにとっても、そうであったならいいと思う。
渡されたものは、確かに受け取った。
あれが何を意味するのか、俺なりに考えている。
もし、その認識に大きな違いがないのならーー
一度、改めて話がしたい。
王都でも、どこでも構わない。
ただ、今度はーー
案内役としてではなく、俺自身として会いたい。
ベイル・アーデン
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読み終えたあとも、しばらく手紙から目を離せなかった。
「……」
静かな室内。
風が、わずかに紙を揺らす。
フェリスは、ゆっくりと手紙を折りたたむ。
机の上に置く。
そのまま、しばらく動かなかった。
視線だけが、そこに留まる。
ーー案内役としてではなく。
脳裏に、その一文が残る。
「……」
小さく、息を吐いた。
指先が、わずかに震える。
気づかないふりをするように、手を引いた。
目の前に、紙とペン。
いつものように、何かを書くためのもの。
けれど、今は、ほんの一言でさえ、重く感じる。
胸の奥が、わずかにざわつく。
目を閉じる。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけーー
再び王都へ行く自分を、想像した。
石畳の道。
あの場所。
再び、あの人と向き合う光景。
胸が、かすかに強く脈打つ。
小さく、首を振る。
それは、自分が選んできた道ではない。
ここでの暮らし。
ここでの剣。
積み重ねてきたもの。
簡単に離れていいものではない。
それにーー
(……まだ)
自分にの中にあるものに、名前をつけられていない。
そのまま向き合えば、きっと揺らぐ。
いや、もう揺らいでいる。
だから。
「……行かない」
はっきりと、そう口にした。
決めるように。
何度も書きなおすことはしなかった。
迷えば、言葉が濁ると分かっていたから。
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ベイル
手紙、受け取りました。
無事に戻っています。
王都では色々と、ありがとう。
渡したものについては、
……あなたの考えていることと、大きくは違ってはいないと思います。
けれど、それをどうするかを決めるには、まだ時間が必要です。
今は、この場所でやるべきことを続けたいと思っています。
だから、今回の話は受けられません。
ただーー
いつか、自分の中で答えが出たときには、その時はきちんと向き合うつもりです。
フェリス
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書き終えたあと、しばらくその文面を見つめた。
必要なことは、すべて書いてある。
余計なものは、一つもない。
それでもーー
ほんの少しだけ、息が詰まる。
手紙を折る。
封をする。
それで、終わりのはずだった。
使いの騎士に手紙を渡し、見送る。
森の中へと去っていく背中。
やがて見えなくなる。
静けさが戻る。
フェリスは、その場に立ち尽くしたまま、動かなかった。
胸の奥に、わずかな重さが残る。
「……これでいい」
自分に言い聞かせるように、呟く。
返事はした。
選んだ。
それでいい。
それなのにーー
なぜか、ほんの少しだけ。
何かを置いてきてしまったような気がした。