騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
 調査隊として、ベイル、レオーニードの他に数名の従者を同行させ、ミルヴァン地方へと向かう。

 森を抜ける道中、馬の揺れに合わせて、レオニードがふと、口を開いた。

 「そういえば、その剣士は髪の色が白銀で、瞳は漆黒だと言っていたな……」

 「……はい。顔ははっきりとは覚えていませんが、印象的な色でした」

 「なるほど……特徴的な珍しい色をしているから、見つけやすそうではあるな」

 わずかに間を置き、レオニードは続けた。

 「それと、その剣士は”少年”だと言っていたな」

 ベイルは手綱を握る指先に、無意識に力を込める。
 胸の奥で何かが揺らいだ。

 少年ーー確かに、それくらいの年頃に見えた気はする。
 だが、顔立ちは曖昧で、記憶は霧がかかったように定かではない。

 あの剣術。
 あの身のこなし。
 あれほどの強さを持つ女性など、果たしているのだろうか。
 少なくとも、自分はそのような女性に会ったことがない。

 やはりあれは少年とする方が自然ーー。

 ベイルは軽く頷く。

 馬の蹄の音が静かに響く中、レオニードは少し真面目な声に変えた。
 「しかし、その剣士と会えたなら、龍の件も、幻だったというわけにはいかなくなるな……」

 その言葉に、ベイルの胸の奥がひやりと波打つ。

 龍が実在するとなれば、それは決して軽視できる問題ではない。国の安寧(あんねい)にも関わってくるからだ。

 複雑な思いが胸をよぎる。
 それでもーー

 今は。

 あの剣士に、もう一度会えるかもしれないという想いの方が、勝っていた。
 
 無意識に手綱を握る手に力が入る。

 ベイルのその想いを察したのか、レオニードが呟く。

 「随分と熱が入っている様子だな……」

 ベイルは視線を前に向けたまま、表情を崩さない。

 「そのようなことはーー」

 言い終える前に、レオニードが続ける。

 「まるで、初恋の相手にこれから会いにいくみたいな顔をしているぞ」

 心臓が大きく跳ねた。

 「……殿下」

 低く、たしなめるように返す。
 
 だが、わずかに声が硬い。

 「違います」

 即座に否定するものの、言葉に妙な力が入る。

 レオニードはくすりと笑った。
 「そうか?私にはそう見えるがな」

 ベイルは何も答えない。

 初恋などではない。
 ただ、あの剣士の正体を確かめたいだけだ。

 ーーそう、思っているはずなのに。

 胸の鼓動だけがやけにうるさかった。
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