騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
静寂。
レオニードの提案ーー礼を尽くす訪問。
その穏やかな形の奥にあるものを、誰もが理解していた。
だが。
ベイルは一瞬だけ目を伏せた。
彼女をーー利用する形になる。
だが。
「……それで、屋敷に入ること自体は可能だ」
最初に整理したのは、やはりベイルだった。
「エルランドの名を使う以上、ノクティスも無碍にはできない」
「確かに。動揺するだろうな」
レオニードが軽く笑う。
「礼を尽くされて拒むわけにはいかない」
「だがーー」
わずかに口元を歪める。
「探りに来るだろうね」
シャオ・ウェンは静かに頷いた。
「それでも、門は、開くでしょう」
「……ああ」
ベイルが頷く。
「だが……偽りとはいえ、彼女に断りなく、こんな形で扱うことになる」
ベイルの表情が崩れる。
レオニードは、ふっと笑った。
「今さらだろう?」
軽い口調。だが、その奥にあるのは鋭さだ。
「お前はもう、とっくに“そういう位置”にいる」
ベイルが、ゆっくりと顔を上げる。
「……どういう意味だ」
「気づいてないのか?」
レオニードは肩をすくめた。
「彼女を取り戻す理由が、“任務だけ”なら、お前は今ここまで必死な顔はしていない」
ーー核心だった。
沈黙。
逃げ場のない言葉。
「安心しろ。公には出さない」
「これは社交界に流す話じゃない」
「ーーあくまで、ノクティスに通すための筋書きだ」
一拍。
ベイルは、わずかに目を伏せた。
“偽りの婚約”
その言葉が、妙に重く胸に落ちる。
本来なら、こんな形で口にしてもいいものではない。
彼女の意思もなく。
彼女の知らない場所で。
勝手に、関係を定めるなど。
ーーだが。
それでも、彼女を取り戻すためなら。
奥歯を、わずかに嚙み締めた。
わずかな沈黙。
「ベイル殿」
シャオ・ウェンの穏やかな声が、室内に落ちる。
「フェリスは……きっと、待っています」
ベイルは、しばらく何も言わなかった。
やがて。
深く、息を吐く。
「……やろう」
短く。
しかし、確かな声で。
一拍。
「その筋書きに乗る」
わずかに視線を上げる。
「ーーフェリスを、取り戻すために」
その言葉に、空気が変わった。
レオニードが満足げに頷く。
「決まりだな」
シャオ・ウェンも、静かに目を閉じた。
「ーーありがとう」
その一言に、ベイルは何も返さなかった。
そっと、胸元のペンダントを握る。
机上の地図に、もう一度視線を落とす。
そこにあるのは、敵地ではない。
ーー取り戻すべき場所だった。
レオニードの提案ーー礼を尽くす訪問。
その穏やかな形の奥にあるものを、誰もが理解していた。
だが。
ベイルは一瞬だけ目を伏せた。
彼女をーー利用する形になる。
だが。
「……それで、屋敷に入ること自体は可能だ」
最初に整理したのは、やはりベイルだった。
「エルランドの名を使う以上、ノクティスも無碍にはできない」
「確かに。動揺するだろうな」
レオニードが軽く笑う。
「礼を尽くされて拒むわけにはいかない」
「だがーー」
わずかに口元を歪める。
「探りに来るだろうね」
シャオ・ウェンは静かに頷いた。
「それでも、門は、開くでしょう」
「……ああ」
ベイルが頷く。
「だが……偽りとはいえ、彼女に断りなく、こんな形で扱うことになる」
ベイルの表情が崩れる。
レオニードは、ふっと笑った。
「今さらだろう?」
軽い口調。だが、その奥にあるのは鋭さだ。
「お前はもう、とっくに“そういう位置”にいる」
ベイルが、ゆっくりと顔を上げる。
「……どういう意味だ」
「気づいてないのか?」
レオニードは肩をすくめた。
「彼女を取り戻す理由が、“任務だけ”なら、お前は今ここまで必死な顔はしていない」
ーー核心だった。
沈黙。
逃げ場のない言葉。
「安心しろ。公には出さない」
「これは社交界に流す話じゃない」
「ーーあくまで、ノクティスに通すための筋書きだ」
一拍。
ベイルは、わずかに目を伏せた。
“偽りの婚約”
その言葉が、妙に重く胸に落ちる。
本来なら、こんな形で口にしてもいいものではない。
彼女の意思もなく。
彼女の知らない場所で。
勝手に、関係を定めるなど。
ーーだが。
それでも、彼女を取り戻すためなら。
奥歯を、わずかに嚙み締めた。
わずかな沈黙。
「ベイル殿」
シャオ・ウェンの穏やかな声が、室内に落ちる。
「フェリスは……きっと、待っています」
ベイルは、しばらく何も言わなかった。
やがて。
深く、息を吐く。
「……やろう」
短く。
しかし、確かな声で。
一拍。
「その筋書きに乗る」
わずかに視線を上げる。
「ーーフェリスを、取り戻すために」
その言葉に、空気が変わった。
レオニードが満足げに頷く。
「決まりだな」
シャオ・ウェンも、静かに目を閉じた。
「ーーありがとう」
その一言に、ベイルは何も返さなかった。
そっと、胸元のペンダントを握る。
机上の地図に、もう一度視線を落とす。
そこにあるのは、敵地ではない。
ーー取り戻すべき場所だった。