騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
屋敷の外。
馬車の前で、足を止める。
その時、控えていた侍女が一歩進み出た。
両手に抱えられているのは、ーー見慣れた布と、長い包み。
「これはお返しするようにと」
侍女は静かに告げた。
それは、フェリスの来ていた服と剣。
フェリスは、ゆっくりとそれを受け取った。
指先に伝わる重み。
懐かしさにも似た感覚に、わずかに息をつく。
その指に、別の温もりが重なる。
ーー離さないように。
フェリスは、わずかに顔を上げる。
その視線が、まっすぐにベイルへと向いた。
ほんの一瞬。
だが、確かに交わる。
ベイルは何も言わない。
ただ、わずかに指に力を込めた。
ーーここにいる。
それだけを、伝えるように。
フェリスは、静かに息をつく。
馬車の扉が開かれる。
先にベイルが乗り込み、振り返る。
差し出された手。
今度は迷いなく、フェリスはそれを取った。
軽く引かれ、馬車へと乗り込む。
扉が閉じる。
外の気配が、遠ざかる。
揺れが、ゆっくりと始まる。
向かい合う形。
だが、繋がれた手は、まだ解かれない。
フェリスは視線を落とす。
解かれない手に、思わず恥ずかしさがこみ上げる。
「……あの……ベイル……」
かすかな声。
ベイルは、短く息をつく。
次の瞬間ーー
重ねた手が強く引かれ、フェリスはベイルの方へと引き寄せられた。
「……っ!?」
引き寄せられた勢いのまま、フェリスの身体はベイルの胸へと収まる。
鍛えられた腕が、思いのほか強く、逃がさないように抱き締めてきた。
息が詰まる。
鼓動が、近い。
耳元で、荒い呼吸がかすかに触れる。
「……無事で……よかった」
低く、押し殺した声。
それだけで、言葉は途切れた。
だが、腕にこもる力が、すべてを語っていた。
フェリスは、一瞬だけ目を見開く。
(……近い……)
理解が追いつかない。
離れなければ、と一瞬だけ思うのにーー
力が、入らない。
むしろ、逃げることの方が不自然に思えた。
「……うん」
かすかな返事。
声が、思ったよりも頼りない。
胸の奥が、妙に騒がしい。
ベイルの腕が、わずかに強まる。
まるで、そこにいることを確かめるように。
「……心配した」
低く落ちる声。
ようやく、息を吐く気配。
張り詰めていたものが、ほどけていく。
フェリスは、そっと目を閉じた。
規則正しくはない鼓動が、直接伝わってくる。
その一つ一つが、
ーー彼が来てくれたのだと、そう告げているようで。
ゆっくりと、フェリスの手が動く。
触れていいのかも分からないまま、
戸惑うように、空をさまよいーー
やがて、恐る恐るベイルの背に触れた。
「……っ」
触れた、その一瞬。
ぴくりと、ベイルの肩が揺れる。
自分で触れておきながら、
熱い。
近すぎる。
触れてしまったことに、今さら気づいたように、
一気に頬が熱を帯びる。
引こうとする。
けれどーー
その瞬間、ベイルの腕がさらに深く回された。
逃がさないように。
抱き締める力が強くなる。
「……っ……」
小さく息を呑む。
離れられない。
離れたくないのかも、分からない。
ただーー
そのまま、指先だけが、わずかに布を掴んだ。
「……く、苦しい……」
かすれた声。
腕が、ぴたりと止まる。
一瞬の間。
それから、抱き締める力がわずかに緩んだ。
「……すまない」
低く、押し殺した声。
けれどーー
腕は、離れない。
閉ざされた馬車の中。
外界から切り離されたその空間で、
二人の呼吸だけが、静かに重なっていく。
揺れに合わせて、身体がわずかに触れ合う。
フェリスは顔を上げられないまま、
ただ、乱れる鼓動の音に耐えるように、静かに目を伏せていた。
馬車の前で、足を止める。
その時、控えていた侍女が一歩進み出た。
両手に抱えられているのは、ーー見慣れた布と、長い包み。
「これはお返しするようにと」
侍女は静かに告げた。
それは、フェリスの来ていた服と剣。
フェリスは、ゆっくりとそれを受け取った。
指先に伝わる重み。
懐かしさにも似た感覚に、わずかに息をつく。
その指に、別の温もりが重なる。
ーー離さないように。
フェリスは、わずかに顔を上げる。
その視線が、まっすぐにベイルへと向いた。
ほんの一瞬。
だが、確かに交わる。
ベイルは何も言わない。
ただ、わずかに指に力を込めた。
ーーここにいる。
それだけを、伝えるように。
フェリスは、静かに息をつく。
馬車の扉が開かれる。
先にベイルが乗り込み、振り返る。
差し出された手。
今度は迷いなく、フェリスはそれを取った。
軽く引かれ、馬車へと乗り込む。
扉が閉じる。
外の気配が、遠ざかる。
揺れが、ゆっくりと始まる。
向かい合う形。
だが、繋がれた手は、まだ解かれない。
フェリスは視線を落とす。
解かれない手に、思わず恥ずかしさがこみ上げる。
「……あの……ベイル……」
かすかな声。
ベイルは、短く息をつく。
次の瞬間ーー
重ねた手が強く引かれ、フェリスはベイルの方へと引き寄せられた。
「……っ!?」
引き寄せられた勢いのまま、フェリスの身体はベイルの胸へと収まる。
鍛えられた腕が、思いのほか強く、逃がさないように抱き締めてきた。
息が詰まる。
鼓動が、近い。
耳元で、荒い呼吸がかすかに触れる。
「……無事で……よかった」
低く、押し殺した声。
それだけで、言葉は途切れた。
だが、腕にこもる力が、すべてを語っていた。
フェリスは、一瞬だけ目を見開く。
(……近い……)
理解が追いつかない。
離れなければ、と一瞬だけ思うのにーー
力が、入らない。
むしろ、逃げることの方が不自然に思えた。
「……うん」
かすかな返事。
声が、思ったよりも頼りない。
胸の奥が、妙に騒がしい。
ベイルの腕が、わずかに強まる。
まるで、そこにいることを確かめるように。
「……心配した」
低く落ちる声。
ようやく、息を吐く気配。
張り詰めていたものが、ほどけていく。
フェリスは、そっと目を閉じた。
規則正しくはない鼓動が、直接伝わってくる。
その一つ一つが、
ーー彼が来てくれたのだと、そう告げているようで。
ゆっくりと、フェリスの手が動く。
触れていいのかも分からないまま、
戸惑うように、空をさまよいーー
やがて、恐る恐るベイルの背に触れた。
「……っ」
触れた、その一瞬。
ぴくりと、ベイルの肩が揺れる。
自分で触れておきながら、
熱い。
近すぎる。
触れてしまったことに、今さら気づいたように、
一気に頬が熱を帯びる。
引こうとする。
けれどーー
その瞬間、ベイルの腕がさらに深く回された。
逃がさないように。
抱き締める力が強くなる。
「……っ……」
小さく息を呑む。
離れられない。
離れたくないのかも、分からない。
ただーー
そのまま、指先だけが、わずかに布を掴んだ。
「……く、苦しい……」
かすれた声。
腕が、ぴたりと止まる。
一瞬の間。
それから、抱き締める力がわずかに緩んだ。
「……すまない」
低く、押し殺した声。
けれどーー
腕は、離れない。
閉ざされた馬車の中。
外界から切り離されたその空間で、
二人の呼吸だけが、静かに重なっていく。
揺れに合わせて、身体がわずかに触れ合う。
フェリスは顔を上げられないまま、
ただ、乱れる鼓動の音に耐えるように、静かに目を伏せていた。