騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
朝の光が、窓から差し込んでいる。
目を覚ました時には、すでに意識ははっきりしていた。
浅い眠りだったと、すぐに分かる。
身を起こし、ゆっくりと息を吐く。
ーー静かだ。
一瞬、昨日の感触が脳裏をよぎる。
細い肩。
乱れた呼吸。
微かな甘い香り。
思考を断ち切るように、ベイルは立ち上がった。
(……考えるな)
短く、自分に言い聞かせる。
顔を洗い、身支度を整える頃には、いつもの騎士としての顔に戻っていた。
部屋を出て、廊下に出る。
ちょうど同じタイミングで、向かいの扉が開いた。
フェリスが、姿を見せる。
ーー昨日とは、違う。
仕立ての良い女性用の衣服ではなく、動きやすさを優先した、簡素な旅装。
灰銀色の髪は、高い位置に一つに束ねられている。
腰には剣。
見慣れた剣士としての姿。
その瞬間。
ーーほんのわずかに。
胸の奥に張り詰めていたものが、緩む。
(……そうか)
息をつくほどでもない、ごく小さな安堵。
昨日のように、余計なことを考えずに済む。
……そう思った直後。
わずかに眉が寄る。
(……何を、安堵している)
自分の内心に、気づく。
意識していたのかと。
あれほど。
ーー思考を断ち切ったはずなのに。
「……着替えたのか」
わずかに遅れて、言葉をかける。
声は、いつも通りに整っている。
だが、先ほどの安堵を打ち消すように、無意識に、距離を測っている。
フェリスは、一瞬だけ視線を落としーー
ほんのわずかに、困ったように笑った。
「……昨日、返してもらったから」
一拍。
「やっぱり、こっちの方がーー落ち着く」
その言葉は、どこか自分に言い聞かせるようだった。
「……そうか」
短く、それだけを返す。
それだけのはずなのにーー
わずかに、間が空く。
視線が合い、すぐに逸れる。
ほんの一瞬の沈黙。
昨日のことには、互いに触れない。
触れられない。
「……体調は」
口をついて出た言葉に、自分でわずかに眉を寄せる。
「大丈夫」
フェリスは静かに答える。
「そうか」
それで、会話は終わった。
それ以上、言葉が続かない。
沈黙が落ちる。
本来なら、もっと確認すべきことがあるはずなのに。
守ると決めた相手に対して、かけるべき言葉はいくらでもある。
それでもーー
(踏み込むな)
昨夜の自分の言葉が、胸の奥で繰り返される。
「……行こう」
結局、それだけを告げて、ベイルは歩き出した。
フェリスも、何も言わずに後に続く。
わずかに距離がある。
ーー昨日よりも。
近づいたはずの距離が、なぜか、遠くなっていた。
目を覚ました時には、すでに意識ははっきりしていた。
浅い眠りだったと、すぐに分かる。
身を起こし、ゆっくりと息を吐く。
ーー静かだ。
一瞬、昨日の感触が脳裏をよぎる。
細い肩。
乱れた呼吸。
微かな甘い香り。
思考を断ち切るように、ベイルは立ち上がった。
(……考えるな)
短く、自分に言い聞かせる。
顔を洗い、身支度を整える頃には、いつもの騎士としての顔に戻っていた。
部屋を出て、廊下に出る。
ちょうど同じタイミングで、向かいの扉が開いた。
フェリスが、姿を見せる。
ーー昨日とは、違う。
仕立ての良い女性用の衣服ではなく、動きやすさを優先した、簡素な旅装。
灰銀色の髪は、高い位置に一つに束ねられている。
腰には剣。
見慣れた剣士としての姿。
その瞬間。
ーーほんのわずかに。
胸の奥に張り詰めていたものが、緩む。
(……そうか)
息をつくほどでもない、ごく小さな安堵。
昨日のように、余計なことを考えずに済む。
……そう思った直後。
わずかに眉が寄る。
(……何を、安堵している)
自分の内心に、気づく。
意識していたのかと。
あれほど。
ーー思考を断ち切ったはずなのに。
「……着替えたのか」
わずかに遅れて、言葉をかける。
声は、いつも通りに整っている。
だが、先ほどの安堵を打ち消すように、無意識に、距離を測っている。
フェリスは、一瞬だけ視線を落としーー
ほんのわずかに、困ったように笑った。
「……昨日、返してもらったから」
一拍。
「やっぱり、こっちの方がーー落ち着く」
その言葉は、どこか自分に言い聞かせるようだった。
「……そうか」
短く、それだけを返す。
それだけのはずなのにーー
わずかに、間が空く。
視線が合い、すぐに逸れる。
ほんの一瞬の沈黙。
昨日のことには、互いに触れない。
触れられない。
「……体調は」
口をついて出た言葉に、自分でわずかに眉を寄せる。
「大丈夫」
フェリスは静かに答える。
「そうか」
それで、会話は終わった。
それ以上、言葉が続かない。
沈黙が落ちる。
本来なら、もっと確認すべきことがあるはずなのに。
守ると決めた相手に対して、かけるべき言葉はいくらでもある。
それでもーー
(踏み込むな)
昨夜の自分の言葉が、胸の奥で繰り返される。
「……行こう」
結局、それだけを告げて、ベイルは歩き出した。
フェリスも、何も言わずに後に続く。
わずかに距離がある。
ーー昨日よりも。
近づいたはずの距離が、なぜか、遠くなっていた。