騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
第4章 仮初めの離宮
第一話「偽りから仮初めへ」
馬車が、ゆるやかに速度を落とす。
石畳を踏む音が変わり、
やがてーー止まった。
王都オルディナ、王宮。
外のざわめきが、わずかに戻ってくる。
扉が開く。
差し込む光。
ベイルは、一瞬だけ動きを止める。
ーー手を差し出すか。
迷いはほんのわずか。
「……どうぞ」
結局、言葉だけで促す。
フェリスが、馬車から降りる。
その足取りはわずかにぎこちなく、降り立ったあとも、どこに視線を置くべきか決めかねるように、ほんの一瞬だけ迷う。
ベイルは、隣に立つべきか、半歩下がるべきかーー
その距離さえ、まだ定まらない様子だった。
「これはまた……随分と他人行儀だな」
軽い声。
見ると、レオニード王子が、柱にもたれかかるように立っている。
ベイルを見るその視線は、呆れを隠す気もない。
ベイルは、わずかに眉を寄せる。
(……視線が痛い)
「婚約者のエスコートくらいは、心得ていると思っていたが?」
その声音は、咎めるというよりは、楽しんでいるようだった。
レオニードの言葉に、ほんのわずかに息を吐いた。
「……心得ております」
ベイルは低く答える。
その視線は逸らされたままーーフェリスの方へと向けられていた。
「……そうか。なら、安心だ」
楽し気に目を細める。
まるで、すべて見透かしているかのように。
「後で、ゆっくり話を聞かせてもらおうか」
レオニードは、にやりと笑う。
「とりあえず、無事にセレスティア嬢を連れ戻すことができたようで、何よりだ」
レオニードは、軽く体を起こし、フェリスの方へと歩み寄る。
「改めてーーようこそ、王宮へ」
優雅に、しかし大仰ではなく一礼する。
「……なるほど」
一瞬だけ、フェリスの様子を確かめるように視線を向けてから、
「これは、手を出さないわけだ」
ちらりとベイルを見る。
ベイルは、無言のまま視線を逸らす。
(……余計なことを……)
ベイルは、わずかに目を細めたが、すぐに何事もなかったかのように表情を戻した。
フェリスは、レオニードのその言葉の意味がわからず怪訝そうな顔した。
その時、フェリスの視線が、ふと止まる。
少し離れた場所に、見慣れた姿があった。
「……師匠」
その声は、わずかに揺れていた。
張り詰めていたものが、ほんのわずかに緩む。
気づかぬうちに、肩から力が抜けていた。
その視線に気づいたのか、シャオ・ウェンは、静かにフェリスを見返した。
何も言わず、ただ穏やかに。
ーーそれだけで、十分だった。
そのやり取りを、ベイルは視界の端で捉える。
何も言わず、ただ静かに視線を伏せた。
「長旅で、疲れているところすまないが……中で話すとしよう」
レオニードが、軽く場を切り替えるように言う。
その一言で、空気がわずかに動いた。
レオニードが先に歩き出す。
それに続くように、ベイルも足を進める。
ほんの一瞬だけ、フェリスの方へ視線を向けてーー
だが、何も言わずに前を向いた。
フェリスは、わずかに遅れて歩き出す。
無意識のまま、シャオ・ウェンの存在を確かめるように、もう一度だけ視線を向けてから。
石畳を踏む音が、静かに重なっていく。
王宮の扉が、ゆっくりと閉じられた。
外のざわめきが遠ざかり、
代わりに、張り詰めた静けさが満ちていく。
一行は、奥へと進んでいった。
石畳を踏む音が変わり、
やがてーー止まった。
王都オルディナ、王宮。
外のざわめきが、わずかに戻ってくる。
扉が開く。
差し込む光。
ベイルは、一瞬だけ動きを止める。
ーー手を差し出すか。
迷いはほんのわずか。
「……どうぞ」
結局、言葉だけで促す。
フェリスが、馬車から降りる。
その足取りはわずかにぎこちなく、降り立ったあとも、どこに視線を置くべきか決めかねるように、ほんの一瞬だけ迷う。
ベイルは、隣に立つべきか、半歩下がるべきかーー
その距離さえ、まだ定まらない様子だった。
「これはまた……随分と他人行儀だな」
軽い声。
見ると、レオニード王子が、柱にもたれかかるように立っている。
ベイルを見るその視線は、呆れを隠す気もない。
ベイルは、わずかに眉を寄せる。
(……視線が痛い)
「婚約者のエスコートくらいは、心得ていると思っていたが?」
その声音は、咎めるというよりは、楽しんでいるようだった。
レオニードの言葉に、ほんのわずかに息を吐いた。
「……心得ております」
ベイルは低く答える。
その視線は逸らされたままーーフェリスの方へと向けられていた。
「……そうか。なら、安心だ」
楽し気に目を細める。
まるで、すべて見透かしているかのように。
「後で、ゆっくり話を聞かせてもらおうか」
レオニードは、にやりと笑う。
「とりあえず、無事にセレスティア嬢を連れ戻すことができたようで、何よりだ」
レオニードは、軽く体を起こし、フェリスの方へと歩み寄る。
「改めてーーようこそ、王宮へ」
優雅に、しかし大仰ではなく一礼する。
「……なるほど」
一瞬だけ、フェリスの様子を確かめるように視線を向けてから、
「これは、手を出さないわけだ」
ちらりとベイルを見る。
ベイルは、無言のまま視線を逸らす。
(……余計なことを……)
ベイルは、わずかに目を細めたが、すぐに何事もなかったかのように表情を戻した。
フェリスは、レオニードのその言葉の意味がわからず怪訝そうな顔した。
その時、フェリスの視線が、ふと止まる。
少し離れた場所に、見慣れた姿があった。
「……師匠」
その声は、わずかに揺れていた。
張り詰めていたものが、ほんのわずかに緩む。
気づかぬうちに、肩から力が抜けていた。
その視線に気づいたのか、シャオ・ウェンは、静かにフェリスを見返した。
何も言わず、ただ穏やかに。
ーーそれだけで、十分だった。
そのやり取りを、ベイルは視界の端で捉える。
何も言わず、ただ静かに視線を伏せた。
「長旅で、疲れているところすまないが……中で話すとしよう」
レオニードが、軽く場を切り替えるように言う。
その一言で、空気がわずかに動いた。
レオニードが先に歩き出す。
それに続くように、ベイルも足を進める。
ほんの一瞬だけ、フェリスの方へ視線を向けてーー
だが、何も言わずに前を向いた。
フェリスは、わずかに遅れて歩き出す。
無意識のまま、シャオ・ウェンの存在を確かめるように、もう一度だけ視線を向けてから。
石畳を踏む音が、静かに重なっていく。
王宮の扉が、ゆっくりと閉じられた。
外のざわめきが遠ざかり、
代わりに、張り詰めた静けさが満ちていく。
一行は、奥へと進んでいった。