騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
「ーー隊長」
不意に、背後から声がかかった。
現実に引き戻されるように、ベイルはわずかに眉を寄せる。
ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、副隊長だった。
ベイルより幾つか年嵩の、三十路に差し掛かった男。
落ち着いた深い茶の髪に、光を含んだ黒い色の瞳。
派手さはないが、場の機微をよく拾う目をしている。
その視線は、ベイルに向けられーー
ほんの一瞬だけ、隣のフェリスへと流れた。
「……何やってるんですか」
低い声で、副隊長が言う。
近くにいた数名の騎士が、わずかに動きを止めた。
「……見ていたのか」
ベイルが問い返す。
「見ていた、というよりーー見えてしまった、ってところかな」
その言い方は軽いが、目は笑っていない。
わずかな間のあと、副隊長は改めてフェリスへと視線を向けた。
「確か……以前にも一度……」
言いかけて、わずかに首を傾げる。
「うちの騎士じゃないな」
空気が、ほんの一瞬だけ静まった。
「関係者だ」
ベイルが短く答える。
視線は外さないまま。
「問題があるか?」
副隊長は、その返答を受けて、わずかに目を細めた。
「ふうん」
それ以上は踏み込まない。
だが、観察する視線だけは外さない。
「……あんまり目立つことは、しない方がいいと思いますけどね」
軽く言う。
忠告とも、独り言ともつかない調子で。
ベイルはその言葉を受け、わずかに視線を外した。
「……善処しよう」
短い応答。
その横でーー
フェリスは、静かに視線を伏せていた。
この場の流れが、自分に起因していることだけは理解している。
「……申し訳ありません」
控えめな声で、フェリスが言う。
その声に、副隊長の視線が移った。
「私が、無理を申し上げたのです」
フェリスは一歩、わずかに身を引く。
「ご迷惑になるようでしたらーー」
言葉を選ぶ、ほんの一瞬の間。
そして、静かに続けた。
「……もう、お願いは致しません」
「待て」
被せるように、ベイルが言った。
ーー一瞬、言葉が詰まる。
何を言うべきかではなく、
何を言いたいのかが、定まらない。
フェリスの肩が、わずかに揺れた。
伏せかけていた視線が、思わず持ち上がる。
「……問題はない」
(……違う)
心の奥で、即座に否定する。
そうではない。
「続ける」
短く、言い切った。
「……俺が許可する」
ーー一拍。
副隊長は何も言わず、ベイルを見る。
ただ、ほんの少しだけ目を細めた。
ベイルは視線を外したまま、応じない。
(……なるほど)
副隊長の内心が、わずかに動く。
その視線が、もう一度だけ、フェリスへ向けられた。
ーー先ほどよりも、わずかに長く。
(……?)
フェリスは、わずかに眉を寄せる。
だが、その意味までは、掴めない。
副隊長は小さく息を吐いた。
「……ま、止めても聞かないだろうし」
肩をすくめる。
それ以上は言わない。
ーーここから先には踏み込まない、という意思表示。
「……悪いな」
ベイルが短く言う。
副隊長はそれに軽く片手を上げるだけで応じた。
近くにいた騎士たちが、何事もなかったかのように動きを戻していく。
ーー深入りはしない。
その判断だけが、静かに共有されていく。
フェリスは小さく息を吐き、胸をなで下ろした。
ーーだが。
このままでよいのかという感覚だけが。
うまく言葉にならないまま、わずかに残った。
不意に、背後から声がかかった。
現実に引き戻されるように、ベイルはわずかに眉を寄せる。
ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、副隊長だった。
ベイルより幾つか年嵩の、三十路に差し掛かった男。
落ち着いた深い茶の髪に、光を含んだ黒い色の瞳。
派手さはないが、場の機微をよく拾う目をしている。
その視線は、ベイルに向けられーー
ほんの一瞬だけ、隣のフェリスへと流れた。
「……何やってるんですか」
低い声で、副隊長が言う。
近くにいた数名の騎士が、わずかに動きを止めた。
「……見ていたのか」
ベイルが問い返す。
「見ていた、というよりーー見えてしまった、ってところかな」
その言い方は軽いが、目は笑っていない。
わずかな間のあと、副隊長は改めてフェリスへと視線を向けた。
「確か……以前にも一度……」
言いかけて、わずかに首を傾げる。
「うちの騎士じゃないな」
空気が、ほんの一瞬だけ静まった。
「関係者だ」
ベイルが短く答える。
視線は外さないまま。
「問題があるか?」
副隊長は、その返答を受けて、わずかに目を細めた。
「ふうん」
それ以上は踏み込まない。
だが、観察する視線だけは外さない。
「……あんまり目立つことは、しない方がいいと思いますけどね」
軽く言う。
忠告とも、独り言ともつかない調子で。
ベイルはその言葉を受け、わずかに視線を外した。
「……善処しよう」
短い応答。
その横でーー
フェリスは、静かに視線を伏せていた。
この場の流れが、自分に起因していることだけは理解している。
「……申し訳ありません」
控えめな声で、フェリスが言う。
その声に、副隊長の視線が移った。
「私が、無理を申し上げたのです」
フェリスは一歩、わずかに身を引く。
「ご迷惑になるようでしたらーー」
言葉を選ぶ、ほんの一瞬の間。
そして、静かに続けた。
「……もう、お願いは致しません」
「待て」
被せるように、ベイルが言った。
ーー一瞬、言葉が詰まる。
何を言うべきかではなく、
何を言いたいのかが、定まらない。
フェリスの肩が、わずかに揺れた。
伏せかけていた視線が、思わず持ち上がる。
「……問題はない」
(……違う)
心の奥で、即座に否定する。
そうではない。
「続ける」
短く、言い切った。
「……俺が許可する」
ーー一拍。
副隊長は何も言わず、ベイルを見る。
ただ、ほんの少しだけ目を細めた。
ベイルは視線を外したまま、応じない。
(……なるほど)
副隊長の内心が、わずかに動く。
その視線が、もう一度だけ、フェリスへ向けられた。
ーー先ほどよりも、わずかに長く。
(……?)
フェリスは、わずかに眉を寄せる。
だが、その意味までは、掴めない。
副隊長は小さく息を吐いた。
「……ま、止めても聞かないだろうし」
肩をすくめる。
それ以上は言わない。
ーーここから先には踏み込まない、という意思表示。
「……悪いな」
ベイルが短く言う。
副隊長はそれに軽く片手を上げるだけで応じた。
近くにいた騎士たちが、何事もなかったかのように動きを戻していく。
ーー深入りはしない。
その判断だけが、静かに共有されていく。
フェリスは小さく息を吐き、胸をなで下ろした。
ーーだが。
このままでよいのかという感覚だけが。
うまく言葉にならないまま、わずかに残った。