騎士団隊長の初恋は、訳あり男装剣士でした
「ーーおい」
背後から声がかかる。
振り返ると、副隊長が立っていた。
腕を組み、こちらを見ている。
いつから見ていたのかは、聞くまでもない。
「……随分と、熱心だったな」
どこか楽し気な声。
ベイルはわずかに眉を寄せる。
「通常の範囲だ」
短く返す。
「そうか?俺には、少し違って見えたがな」
そのまま、ゆっくりと近づいてくる。
視線が、ベイルの持つ剣へと落ちる。
そして、ふっと小さく笑った。
「……で?」
「何だ」
「何をそんな顔で考えてる」
問われて、わずかに言葉に詰まる。
「別にーー」
「分かりやすいぞ」
被せるように言われる。
副隊長は、楽しそうに目を細めた。
「勝った顔じゃねえな、それ」
ベイルは無言で視線を外す。
勝敗の話ではない。
そんなことは、自分でも分かっている。
そして一拍。
副隊長は、フェリスが去っていった方向へ、ちらりと視線を向ける。
「……ああいうのはな」
言葉を選ぶように、少しだけ間を置く。
「追い詰めるもんじゃない」
淡々とした口調。
ベイルは、わずかに眉をひそめる。
「……何の話だ」
副隊長は肩をすくめた。
「分かってない顔だな」
くつくつと、小さく笑う。
あからさまな揶揄ではない。
だが、確実に何かを知っている側の笑いだった。
「まあ、いい」
副隊長は軽く手を振る。
「そのままでいろ」
「……は?」
「変に分かると、つまらなくなる」
意味のわからないことを言う。
そのまま踵を返しかけてーー
ふと、足を止めた。
「ただし」
肩越しに、ちらりと振り返る。
その目が、わずかに細められる。
「次は、少し手加減してやるんだな」
「……していたつもりだ」
「違うな」
即座に否定される。
「お前がやっていたのは、“逃がさない”だ」
言い切る。
一拍の沈黙。
「ーーああいうのは、慣れていない相手にはきつい」
それだけ言って、今度こそ歩き出す。
去っていく背中。
ベイルは、その場に立ったまま動かない。
(……逃がさない、か)
無意識だった。
少なくとも、そう思っていた。
だがーー
思い返せば、確かに。
間合いを詰めた。
外させなかった。
退く余地を削った。
(……なぜだ)
勝つためなら、もっと効率のいいやり方がある。
あんな踏み込みは、合理的ではない。
それなのに。
あの時、自分はーー
「……」
思考が止まる。
答えは出ない。
ただ一つ、はっきりしているのは。
もう一度、同じ状況になれば。
(……同じことをする)
理由は分からない。
だが、そう確信している。
ベイルはゆっくりと、手の中の剣を見下ろした。
さっきまでとは違う重さが、そこにあった。
背後から声がかかる。
振り返ると、副隊長が立っていた。
腕を組み、こちらを見ている。
いつから見ていたのかは、聞くまでもない。
「……随分と、熱心だったな」
どこか楽し気な声。
ベイルはわずかに眉を寄せる。
「通常の範囲だ」
短く返す。
「そうか?俺には、少し違って見えたがな」
そのまま、ゆっくりと近づいてくる。
視線が、ベイルの持つ剣へと落ちる。
そして、ふっと小さく笑った。
「……で?」
「何だ」
「何をそんな顔で考えてる」
問われて、わずかに言葉に詰まる。
「別にーー」
「分かりやすいぞ」
被せるように言われる。
副隊長は、楽しそうに目を細めた。
「勝った顔じゃねえな、それ」
ベイルは無言で視線を外す。
勝敗の話ではない。
そんなことは、自分でも分かっている。
そして一拍。
副隊長は、フェリスが去っていった方向へ、ちらりと視線を向ける。
「……ああいうのはな」
言葉を選ぶように、少しだけ間を置く。
「追い詰めるもんじゃない」
淡々とした口調。
ベイルは、わずかに眉をひそめる。
「……何の話だ」
副隊長は肩をすくめた。
「分かってない顔だな」
くつくつと、小さく笑う。
あからさまな揶揄ではない。
だが、確実に何かを知っている側の笑いだった。
「まあ、いい」
副隊長は軽く手を振る。
「そのままでいろ」
「……は?」
「変に分かると、つまらなくなる」
意味のわからないことを言う。
そのまま踵を返しかけてーー
ふと、足を止めた。
「ただし」
肩越しに、ちらりと振り返る。
その目が、わずかに細められる。
「次は、少し手加減してやるんだな」
「……していたつもりだ」
「違うな」
即座に否定される。
「お前がやっていたのは、“逃がさない”だ」
言い切る。
一拍の沈黙。
「ーーああいうのは、慣れていない相手にはきつい」
それだけ言って、今度こそ歩き出す。
去っていく背中。
ベイルは、その場に立ったまま動かない。
(……逃がさない、か)
無意識だった。
少なくとも、そう思っていた。
だがーー
思い返せば、確かに。
間合いを詰めた。
外させなかった。
退く余地を削った。
(……なぜだ)
勝つためなら、もっと効率のいいやり方がある。
あんな踏み込みは、合理的ではない。
それなのに。
あの時、自分はーー
「……」
思考が止まる。
答えは出ない。
ただ一つ、はっきりしているのは。
もう一度、同じ状況になれば。
(……同じことをする)
理由は分からない。
だが、そう確信している。
ベイルはゆっくりと、手の中の剣を見下ろした。
さっきまでとは違う重さが、そこにあった。