ヴァンパイアハーフにまもられて
エピローグ
次の日。
私とまゆと、月詠さんとルチルさん。四人(ステラちゃんを入れると五人)で、放課後に屋上へ集まった。
夢野さんはまだ京都から戻ってきてない。
屋上は立ち入り禁止の上に周りにはほかに高い建物がないので、屋外ではあるんだけど、こっそり集まるのには最適だった。
「ほら、凛。おれの名前呼んでみな。白夜。びゃーくーや」
「あ、あの、ええと、び、びゃく……」
「白夜だ、白夜。ほら。君がつけてくれた名前だろう」
「む、無理ですよ! 私、男子を下の名前で呼んだことなんてないんですから」
助けを求めて、まゆとルチルさんを見る。
「あたしは、凛より先に月詠さんを下の名前で呼ぶのは気が引けるから、まずは凛がどうぞ」
「いや、そうじゃなくて」
「僕はこれまでどおり、月詠様とお呼びします。僕がそう呼ぶのは、月詠様だけですから、それで問題ありません」
うう。せめて、誰かほかの人が白夜さんって呼んでくれれば、私もちょっとは慣れて言いやすくなりそうなのに。
「あ、そ、そう! 私今度から、月詠さんとルチルさんの分のお弁当作ってきますからね!」
「んー。気持ちはありがたいが、大変だろう。もう少し労力の少ないものなら、おれたちも気兼ねなく受け取れそうなもんだけど」
「あ、じゃあ凛、お菓子ならどう? クッキーとか、カップケーキとか作ってきて差し入れるとか。毎日じゃなくて、月に何回かとかならいいんじゃない?」
まゆの提案に、なるほどと思った。
それなら、今のとこ料理が得意ってわけでもない私でも、無理なく続けられるかもしれない。
「ルチル、今日はどうだ? 周りに異常はないか?」
「はい。異常というほどではありませんが、西の方角に蛇坊主が、北の林にかまいたちの気配がありますね。近いうち、襲ってくるかもしれません。とはいえ、デュラハンほどの脅威ではありませんが」
そこで、まゆがぱんと手を打ち鳴らして、私に言ってくる。
「そうそう、昨日のルチルさん、すごかったんだよ! 大きい空飛ぶ馬と大格闘して、全然負けてなかったんだから!」
「ふ。カラスともあろうものが、馬ごときと取っ組み合いで後れを取るわけにはいきませんからね」
ルチルさんはそう言うけど、馬には負けると思うな、普通のカラスは……。
ふと西の空を見ると、秋の太陽はもう色が変わって、夕暮れが近づいてきてた。
「月詠様、昨日は京都から帰ってこられて戦闘でしたし、お疲れなのではありませんか? 今のうちに少し休まれては」
「そうだな。十五分くらい仮眠するか。さすがに、ちょっとくたびれたからな」
月詠さんが、ころりと横になって目を閉じた。
そのあたりの床は、ルチルさんが掃き掃除から拭き掃除まで済ませているそうで、きれいなものだった。さすが。
「では僕はカラスの姿になって、近くを見回りしてきます。まゆ殿は……」
「あ、あたしは今日はもう帰ろうかな。凛はゆっくりしていきなよ」
え?
「ではまゆ殿、下までお連れしましょう。それと、怪しいものが近づかないよう送りますよ」
「ありがとうございます。じゃあ、たまにはステラちゃんも、ルチルさんと一緒にパトロールしてみよっか」
そう言うが早いか、まゆは、私の肩にいたステラちゃんをふわっとつかまえて、ルチルさんもそれを受け取る。
そしてルチルさんは背中から黒い羽根を生やすと、まゆを抱えて屋上から降りて行っちゃった。
ちょ、ちょっと? まゆ?
月詠さんと二人になっちゃったけど。
あ、でも月詠さん寝てるんだっけ。
ちらりと見ると、寝転んでる月詠さんが、隣に座ってる私を見上げてた。
「わっ。起きてたんですか」
「そんな一瞬で寝られるかよ。それに」
「それに?」
「せっかく凛と二人になったなら、君と話していたほうが疲労が回復しそうだ」
そんなことあります?
でも、私が役に立てるなら、それはうれしいかも。
「うーん、なんの話をしましょうか……疲れが取れるようなお話……」
「凛のことを話してくれたらいいよ。今日、朝からなにがあって、どんなことをしたのか。授業でなにを習って、だれとどう過ごしたのか」
「……そんなこと聞いて、面白いですか?」
「面白いね。君の話が聞きたい。種族は違っても、ともにある同士なんだろ? なら、君の日常を知りたいな」
今日一日のことを、朝から順に思い出していく。
ルチルさんは、あとどれくらいで帰ってくるだろう。
急がないと。急いで話さないと。
月詠さんと話したいことが、聞きたいことが、知りたいことが、私のほうこそたくさんあるから。
月詠さんが体を起こした。
私は、朝、スマホのアラームを止めて、着替えて朝ご飯を食べて、小説のあらすじをちょっとノートパソコンに打ち込んで、家を出たところから話しだす。
空が暗くなってきた。
もうすぐ夜がやってくる。
人間と吸血鬼。月詠さんには言わなかったけど、違う生き物の私たちが一緒にいられるのは、もしかしたら、どんなにがんばってもほんのちょっとの時間なのかもしれない、と正直思う。
でも、いつまでも続いてほしい。すぐに終わってしまうのがとても惜しい、このきれいな夕焼け空に、つい私たちのことを連想してしまって、なおさらそう思う。
――ハッピーエンドだよ。
――みんな、幸せになるよ。どんなにつらいことがあっても、最後は全員で、幸せになって終わるよ。
いつか、ステラちゃんに言った、私の物語の約束。
現実の私たちも、そうだといい。
屋上に、私と月詠さんの、話し声と笑い声が響く。
その間だけは、時の流れが止まっているように感じて、私たちはいつまでもおしゃべりを続けた。
終
私とまゆと、月詠さんとルチルさん。四人(ステラちゃんを入れると五人)で、放課後に屋上へ集まった。
夢野さんはまだ京都から戻ってきてない。
屋上は立ち入り禁止の上に周りにはほかに高い建物がないので、屋外ではあるんだけど、こっそり集まるのには最適だった。
「ほら、凛。おれの名前呼んでみな。白夜。びゃーくーや」
「あ、あの、ええと、び、びゃく……」
「白夜だ、白夜。ほら。君がつけてくれた名前だろう」
「む、無理ですよ! 私、男子を下の名前で呼んだことなんてないんですから」
助けを求めて、まゆとルチルさんを見る。
「あたしは、凛より先に月詠さんを下の名前で呼ぶのは気が引けるから、まずは凛がどうぞ」
「いや、そうじゃなくて」
「僕はこれまでどおり、月詠様とお呼びします。僕がそう呼ぶのは、月詠様だけですから、それで問題ありません」
うう。せめて、誰かほかの人が白夜さんって呼んでくれれば、私もちょっとは慣れて言いやすくなりそうなのに。
「あ、そ、そう! 私今度から、月詠さんとルチルさんの分のお弁当作ってきますからね!」
「んー。気持ちはありがたいが、大変だろう。もう少し労力の少ないものなら、おれたちも気兼ねなく受け取れそうなもんだけど」
「あ、じゃあ凛、お菓子ならどう? クッキーとか、カップケーキとか作ってきて差し入れるとか。毎日じゃなくて、月に何回かとかならいいんじゃない?」
まゆの提案に、なるほどと思った。
それなら、今のとこ料理が得意ってわけでもない私でも、無理なく続けられるかもしれない。
「ルチル、今日はどうだ? 周りに異常はないか?」
「はい。異常というほどではありませんが、西の方角に蛇坊主が、北の林にかまいたちの気配がありますね。近いうち、襲ってくるかもしれません。とはいえ、デュラハンほどの脅威ではありませんが」
そこで、まゆがぱんと手を打ち鳴らして、私に言ってくる。
「そうそう、昨日のルチルさん、すごかったんだよ! 大きい空飛ぶ馬と大格闘して、全然負けてなかったんだから!」
「ふ。カラスともあろうものが、馬ごときと取っ組み合いで後れを取るわけにはいきませんからね」
ルチルさんはそう言うけど、馬には負けると思うな、普通のカラスは……。
ふと西の空を見ると、秋の太陽はもう色が変わって、夕暮れが近づいてきてた。
「月詠様、昨日は京都から帰ってこられて戦闘でしたし、お疲れなのではありませんか? 今のうちに少し休まれては」
「そうだな。十五分くらい仮眠するか。さすがに、ちょっとくたびれたからな」
月詠さんが、ころりと横になって目を閉じた。
そのあたりの床は、ルチルさんが掃き掃除から拭き掃除まで済ませているそうで、きれいなものだった。さすが。
「では僕はカラスの姿になって、近くを見回りしてきます。まゆ殿は……」
「あ、あたしは今日はもう帰ろうかな。凛はゆっくりしていきなよ」
え?
「ではまゆ殿、下までお連れしましょう。それと、怪しいものが近づかないよう送りますよ」
「ありがとうございます。じゃあ、たまにはステラちゃんも、ルチルさんと一緒にパトロールしてみよっか」
そう言うが早いか、まゆは、私の肩にいたステラちゃんをふわっとつかまえて、ルチルさんもそれを受け取る。
そしてルチルさんは背中から黒い羽根を生やすと、まゆを抱えて屋上から降りて行っちゃった。
ちょ、ちょっと? まゆ?
月詠さんと二人になっちゃったけど。
あ、でも月詠さん寝てるんだっけ。
ちらりと見ると、寝転んでる月詠さんが、隣に座ってる私を見上げてた。
「わっ。起きてたんですか」
「そんな一瞬で寝られるかよ。それに」
「それに?」
「せっかく凛と二人になったなら、君と話していたほうが疲労が回復しそうだ」
そんなことあります?
でも、私が役に立てるなら、それはうれしいかも。
「うーん、なんの話をしましょうか……疲れが取れるようなお話……」
「凛のことを話してくれたらいいよ。今日、朝からなにがあって、どんなことをしたのか。授業でなにを習って、だれとどう過ごしたのか」
「……そんなこと聞いて、面白いですか?」
「面白いね。君の話が聞きたい。種族は違っても、ともにある同士なんだろ? なら、君の日常を知りたいな」
今日一日のことを、朝から順に思い出していく。
ルチルさんは、あとどれくらいで帰ってくるだろう。
急がないと。急いで話さないと。
月詠さんと話したいことが、聞きたいことが、知りたいことが、私のほうこそたくさんあるから。
月詠さんが体を起こした。
私は、朝、スマホのアラームを止めて、着替えて朝ご飯を食べて、小説のあらすじをちょっとノートパソコンに打ち込んで、家を出たところから話しだす。
空が暗くなってきた。
もうすぐ夜がやってくる。
人間と吸血鬼。月詠さんには言わなかったけど、違う生き物の私たちが一緒にいられるのは、もしかしたら、どんなにがんばってもほんのちょっとの時間なのかもしれない、と正直思う。
でも、いつまでも続いてほしい。すぐに終わってしまうのがとても惜しい、このきれいな夕焼け空に、つい私たちのことを連想してしまって、なおさらそう思う。
――ハッピーエンドだよ。
――みんな、幸せになるよ。どんなにつらいことがあっても、最後は全員で、幸せになって終わるよ。
いつか、ステラちゃんに言った、私の物語の約束。
現実の私たちも、そうだといい。
屋上に、私と月詠さんの、話し声と笑い声が響く。
その間だけは、時の流れが止まっているように感じて、私たちはいつまでもおしゃべりを続けた。
終

