きみは硝子のゼラニウム




そして、何のためらいもなく、私の被っているキャップのつばに指をかけて、くいっと少し持ち上げる。



「ちゃんと顔見せてよ」



ぐっと距離が縮まって、彼の匂いがふわっと届く。

柔らかい洗剤の匂いと、いつものミモザとは違う、ほんの少しの香水。



「……。」



言葉が出なくて固まっている私を見て、尋くんは悪戯っぽく笑う。


出会った時から、人との距離感というものを知らない人。パーソナルスペースなんて概念、彼の辞書には載っていないんだと思う。


前にも一度、近い、って勇気を出して言ったことがあるけど、「そう?」って笑われて終わった。たぶん今日も同じだ。だからもう言わない。


勝手に私が顔を赤くして終わり、なんて展開は、ここ最近ずっとそうだ。

尋くんは何もしてないみたいな顔をして、でも確実に私の心臓を撃ち抜いてくる。



熱くなった頬をどうにか隠したくて、俯くのも悔しいから、代わりにわざとムッとした顔を作る。唇を尖らせて、ちょっとだけ睨んでみせる。


すると決まって、「かわいー」なんて爆弾が投下される。


その一言で私の防御は全部崩壊する。



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