きみは硝子のゼラニウム




ぎゅうぎゅうの車内で、わずかに揺れるたび、尋くんの体温が伝わる。

顔を上げなきゃいいのに、無意識に、ほんの少しだけ視線を上げてしまう。


すると、すぐに目が合った。

ん?って、低くて優しい声。たった一音なのに、心臓がぎゅっと締めつけられる。



思い出す。学祭の日のこと。


尋くんは、「返事はいらない」と言った。


急かすつもりはないし、そういうの全然考えてなかったと思うし、って。そして、少し笑ってから、「でもこれからもっと積極的に行くから、覚悟して」と爆弾を落とす。

最後に、「あ、好きになった場合は早く教えて」なんて、さらっと追い打ちまでかけて。



あれから2週間。私は、あの言葉をずっと消化できていない。

気まずくなるのかもしれない、って思った。でも、現実は違った。


家に帰ったその日の夜も、尋くんからはいつも通りのメッセージが届いた。「ちゃんと帰れた?」って。次の日も、「暇だったから」と言って、私のバイト先のお店に顔を出してくれた。何もなかったみたいに、でも確実に前より距離は近くて。


私の心配ごとなんて、どうってことないよ、と言われてるみたいで、ひとつしか違わないのにやっぱり大人だな、と思った。



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