きみは硝子のゼラニウム




そういえば、顔が綺麗だとは言っていた。

だから、たぶんそれだけなんだろうな、って思う。


まだ出会って少ししか経っていないから、これから先、知っていったら、きっと幻滅される。



電車を何度も乗り換えて、やっと辿り着いたその場所は、見渡す限り紫に染まったラベンダー畑だった。

ふわっと甘い香りが風に乗って流れ込んできて、長い移動の疲れなんて一瞬でどこかへ消えてしまう。


胸いっぱいに吸い込んだ空気は、少しだけ夏の匂いがしていて、今日は天気がよくて本当によかった、と心の底から思った。

もし曇っていたら、この紫はきっとこんなにも鮮やかに見えなかっただろうし、隣にいる尋くんの横顔も、こんなに眩しくはなかったかもしれないから。



「すげー景色」



そう言って尋くんは、真上から照りつける太陽を避けるみたいに、額のあたりに手で影をつくる。指の隙間からこぼれる光が頬を照らして、その横顔がやけに大人っぽく見えて、思わず視線を逸らした。



「…すごく、きれい…」



ラベンダーのことを言ったはずなのに、自分の声が少しだけ震えた気がして、慌てて足元の紫に目を落とす。

「な」って短く笑う尋くんの声は、青空みたいにまっすぐで、隣にいるだけで胸の奥が熱くなる。

キャップのつばを少し持ち上げると、強い日差しが瞳に飛び込んできて、思わず目を細めた。



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