きみは硝子のゼラニウム
「ねぇ、尋くんっ」
「ひな」
「……?」
数秒、目が合ったまま沈黙が続く。その後、尋くんの視線がリビングの奥にある和室へ向けられた。
いつもお客さんを通すときは閉めてある襖だけど、今日だけは急だったから開けたまま。
「あれ、もしかしてひなのお母さん?」
尋くんの視線の先には――仏壇と、そこに飾られた写真。
「……あ、えっと……私が、小学2年生のときに……事故で亡くなったの」
言葉に詰まりながらも、私は少しずつ声を出す。
「…そう」
「…手を繋いで横断歩道を渡ってたんだけど、信号無視の車が突っ込んできて、お母さんは私を庇うような形で…」
もう、10年も前のことだ。
普段だったら、こんな話は誰にもできない。そもそも話す相手がいないし、思い出すだけで胸が痛む。
でも、今日は、何故か話してしまう。
「…って、ごめんね。暗い話しちゃって」
無理やり笑おうとしたけれど、声はぎこちなく、微かに震えてしまう。
だめ、だ。こんな話、するつもりなかったのに。
なのに、なんで――。
尋くんといると、安心してしまう自分がいる。心の壁を、ほんの少しだけ、下ろしてしまう。