きみは硝子のゼラニウム

*

*

*





配達終わり。

夕方のぬるい風に吹かれながら、私はPetal & Co.の刺繍が入ったカバンを肩にかけ直した。

今日もちゃんと、誰かの手に渡った。花束を渡した瞬間の、あの少し驚いたような、それからふわっとほどける笑顔を思い出すと、胸の奥が温かくなる。


季節の変わり目はいつだって注文が増える。本格的な夏はもうすぐそこまで来ていて、今日は配達も店頭の注文もひっきりなしだった。

汗ばむ指で伝票を書きながら、冷蔵ケースの中の花たちを何度も確認する。ひまわりも、もう少しで入荷するらしい。



帰り道、駅近の繁華街へ続く入り口あたりで、ふと見覚えのある背格好が目に入った。



「あれ?一色さん?」



低くて少し驚いた声。


金森くんだ。



「……。」



……そうだ、カラオケの場所、ここだった。

別に悪いことをしているわけじゃないのに、どうしてこんなに気まずいんだろう。誘われてないのに、うっかり忘れてバイトを入れた、なんて嘘をついたから?



「もしかして、顔出しに来てくれたの?」


「えっ、いや、そうじゃないんだけど」



しどろもどろに否定すると、金森くんは私の全身を上から下までゆっくり眺めて、へえ、と小さく笑った。



< 156 / 301 >

この作品をシェア

pagetop