きみは硝子のゼラニウム
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配達終わり。
夕方のぬるい風に吹かれながら、私はPetal & Co.の刺繍が入ったカバンを肩にかけ直した。
今日もちゃんと、誰かの手に渡った。花束を渡した瞬間の、あの少し驚いたような、それからふわっとほどける笑顔を思い出すと、胸の奥が温かくなる。
季節の変わり目はいつだって注文が増える。本格的な夏はもうすぐそこまで来ていて、今日は配達も店頭の注文もひっきりなしだった。
汗ばむ指で伝票を書きながら、冷蔵ケースの中の花たちを何度も確認する。ひまわりも、もう少しで入荷するらしい。
帰り道、駅近の繁華街へ続く入り口あたりで、ふと見覚えのある背格好が目に入った。
「あれ?一色さん?」
低くて少し驚いた声。
金森くんだ。
「……。」
……そうだ、カラオケの場所、ここだった。
別に悪いことをしているわけじゃないのに、どうしてこんなに気まずいんだろう。誘われてないのに、うっかり忘れてバイトを入れた、なんて嘘をついたから?
「もしかして、顔出しに来てくれたの?」
「えっ、いや、そうじゃないんだけど」
しどろもどろに否定すると、金森くんは私の全身を上から下までゆっくり眺めて、へえ、と小さく笑った。