【完】きみは硝子のゼラニウム
「…植物図鑑?」
「そう。せっかくだし、俺も花のこと知りたいなと思って」
そう言いながら、尋くんはパラパラとページをめくっていく。
紙の擦れる音がやけに大きく聞こえて、私は息をするのも忘れそうになる。
「ひなが好きなもの、俺もちゃんと知りたい」
目線は本に落としたままなのに、その声だけはまっすぐ私に届いた。胸の奥を、一直線に射抜くみたいに。
…………私のため?
私のために、わざわざ本屋さんに行ったの?
あのたくさん並んだ本の中から、これを選んでくれたの?
どんな顔して、棚の前に立ってたの。
どんな気持ちで、それをレジに持って行ったの。
想像するだけで、胸がぎゅっと締めつけられる。嬉しいはずなのに、苦しい。あたたかいはずなのに、痛い。感情が一気に溢れて、うまく呼吸ができない。
どうしてそんなに簡単に、私の心を揺らすの。積み上げてきた理性が、音を立てて崩れていく。
もう、勘弁してほしい。私は今でもう十分だ。
好きだと自覚しただけでも手一杯なのに、こんなの反則だ。